小さな人間を3人拾ったのは、瘴気を含んだ地方独特の雨が降っていた時だった。
2人は軽傷だったが、1人の少女は腹部に大きな出血があった。
背負われた娘に意識はある。だが血の気の引いた額に髪は張り付き、荒い呼吸を繰り返していた。朦朧とした瞳にもはや覇気はない。
「お願い、します。助けて下さい…」
旅人か家出か。こんな森の奥地に、地を知った村人でもあるまい。小柄であったが1人は戦士だろう。マントの下から薄い帷子の音がする。3人は酷く疲れていたようだった。
この俺が人助けだと。故郷も追われ長く独りのはぐれが。
「悪いが…」
雨よけの付加のかかった魔法壁の外で子供達の息を呑む音がする。
1人が物分かりよく目を逸らし、もう1人が目に涙を浮かべた頃だった。
「何よ!偏屈ね!これだから森の年寄りって言われるのよ」
甲高い声がした。驚いた。手の平ほどの妖精が娘の衣服から飛び出してきたのだ。
「お前…妖精か」
「まぁっ。田舎もんね、エーナスも知らないの」
知るかっ! 男は髪をうっとおしく掻き上げる。
確かによく見れば妖精の類とは違うようだが…
「妖精だかエーナスだかどうでもいい。お得意の回復魔法をそいつらに掛けてやればいいだろう」
「できないから困ってるんだってば!」
改めて理解した。彼ら3人を雨から守っているのはこの妖精…いや、エーナスとやらなのか。特殊な場合を除き魔法は一度に1つしか発動しない。
「助けてもらう態度か、それが…」
そう言った途端、少年が泥の地面に崩れるように膝まづいた。
「お願いします!このままじゃ、ミレーヌが…!!」
懇願だった。人間には詳しくないが、子供にやらせるには余りに胸糞の悪い光景…。
雨はまだ続いている。
ああ、しまった。やられた。
…なんなんだ今日は…。もう後には引けない。
黒髪の森の偏屈老人。もといギールスの、よく分からない旅の道連れとは、この氷雨の中出会ったのだった。
2/14/2026, 1:33:29 PM