遠い鐘の音
シャン、シャン、シャン、シャン───
一定の感覚で錫杖を鳴らす音が聞こえる。
昼間ならともかく、深夜にどこからか聞こえてくる。
こんな夜中に迷惑だなと思いながら目を閉じる。
次の日、そのまた次の日も同じ錫杖の鐘の音が聞こえてくる、遠かった音が日に日に近づいているようにも感じる。
「なぁ、最近どっかの寺の坊さんが夜中にシャンシャン煩くて眠れないんだ、お前はどうだ?」
別室で寝ている女房に聞いてみたが、
「……。」
何故か虚空を見つめて黙ったままだった。
疲れているのかと思い、今日はいつもより早めに床に就く。
深夜になるとまたシャンシャンと音がした。ああもううんざりだ、一言言ってやろうそう言って外に出ると、あろうことか私の家の庭に托鉢僧が立っていた。
驚きよりも怒りが混み上がり僧侶の胸ぐらを掴むと、錫杖をダンッと力強く突いて経を読み始めた。
その途端、俺の身体中が燃えるように痛みだす。
あまりの痛みに声すら出せなかった。
助けを求めようと家の方を見ると玄関から女房が出てきた。
「…毎晩、ご苦労さまです。主人もこれできっと成仏できますよね?」
成仏?なんだ、誰の話だ?
お経を止めて僧侶が話し出す。
「死後、ご主人の魂に悪霊が憑いたせいでこの家、土地に縛られ、もう少しで貴女に危害を加える寸前でした。今日で完全に悪霊から切り離してご主人の魂を成仏させます。」
…あぁ、そうか俺は
12/13/2025, 12:03:09 PM