物憂げな空
その日はやけに胸騒ぎがした。
その日はやけに雲が分厚くて息苦しかった。
今日は良くない事が起こる。
物憂げな空を眺めて、1人怯える。
私には視える能力があった。
視えるだけで何もすることができない、だから余計に辛い。
「そろそろ…来る。」
震える手でテレビをつける。
けたたましい警報音と共にテレビの上部に緊急地震速報が流れる。
今朝、テレビをつけた時に生放送の映像を見て私は慄いた。
テレビに映る全ての人に黒いモヤがかかっていた。
「あ…あぁ、死んじゃう。みんな死んじゃう。」
こんなの視たくもないのに、視えても何も出来ないのに。
気分が悪くて苦しくて嗚咽した。
小さな命
赤ん坊の頃のアルバムを見つけた。
当時の手形が残されていて私はそっと今の自分の手と重ねてみた。
まだ産まれて20数年しか経ってないけど、あっという間に大きくなったんだな、なんて感慨深くなる。
命は平等…とは言い難いけど、どんな人にも公平にひとつの命が与えられて生きている。
なんとなく、こうして普通に生きていることが凄いことだなって感じる。
手のひらに絵の具で色を塗って、あの頃の小さな私の手の隣に今の私の手型を押した。
Love you
(※2/21 「0からの」より、0の視点)
機関の養成施設に気の弱そうな細っこい新参者が来た。
聞くと俺と同い年、教育係兼ルームメイトとして仲良くしろと命令された。
「初めまして、俺は0(ゼロ)。お前の名前は今日からQ(クイーン)だ。よろしくな。」
どうやら親が死んで、金目当ての親戚に売り飛ばされたらしい。
俺は孤児だったからなんとなく親近感が湧いて、命令とは無関係に仲良くするようになった。
しばらくして施設での暮らしが終わり、組織の正式な構成員として活動が始まった。
2人1組で任務にあたる。俺はQをパートナーに選んだ。
ある日、上官に呼び出され個別任務を言い渡された。そして、上官から「相棒と別れる覚悟をしておけ」と告げられた。
結局、俺たちは組織の使い捨ての駒にすぎない。
「…そんなん、いつでも覚悟してますよ。」
そう吐き捨てて部屋を出たが、やはり怖いものは怖い。気づいた時にはシガレットケースのタバコは残り1本になってしまった。
俺は震える手で残った1本のタバコにメッセージを書いた。
"Dear Q" に続けて「Love you」と書こうとして、辞めた。
愛なんて安っぽい言葉じゃつまらない。
"Dear Q You're special to me. 0"
メッセージを書いたタバコにキスしてそっとシガレットケースにしまい、別の組員に託した。
太陽のような
異様な明るさに空を見あげた。
そこには太陽があった。
けれど、時刻は17時、辺りは薄暗い。
それは太陽よりも大きくて赤くて不気味な雰囲気を纏っていた。
周りの空も赤黒く染められて
まるで違う世界の空みたいだった。
太陽のような月。
0からの
0(ゼロ)と知り合ったのは5年前。
彼の本当の名前は知らない。
きっと彼も僕の本当の名前は知らないだろう。
彼は僕をQ(クイーン)と呼んだ。
男なのにクイーンだなんて嫌だと思った、けど組織の言うことは絶対。どんなことにも逆らうことはできなかった。
国の極秘諜報機関。
そこには様々な理由で戸籍を捨てた人間が集まっていた。
0は元々孤児で身寄りのないところを拾われた。
僕は両親が事故死し、金の代わりに組織に売られた。
境遇が似ている僕らは自然と親しくなった。
0は僕を気に入ってくれて任務パートナーに選んでくれた。
ある日の個別任務で、0は帰らぬ人となった。
突然のことだった。到底受け入れられなかった。
昨日まで生きていたのに、隣で笑いあっていたのに。
「Q、これ 0 からの…。任務中の死はよくある事だ。…まぁ、しばらくゆっくり休め。」
別の組員からシガレットケースと1本のタバコを預かった。
ケースには"Z.R" 彼の本名のイニシャルだろうか、そしてタバコには小さくメッセージが遺っていた。
「Dear Q You’re special to me. 0」
僕は彼の形見を握りしめ声を殺して泣いた。