どこかの100均のティーキャンドルが、異常燃焼を起こして酷く大きく燃え盛って、
吹いても消えなかったので、テンパって水をぶっかけて、前髪がアフロになりかけた。
遠い日のぬくもりを教訓にしたい物書きです。
キッチンの油の初期消火も、キャンドルの火の消火にも、窒息消火。酸素を奪って消しましょう。
と、いう遠い日の実体験は置いといて、
今回のおはなしのはじまり、はじまり。
最近最近、都内某所にある某杉林の中の、
山小屋というか林小屋というか、ともかくそこで、
お題回収役の男性が、パチ、ぱきん、
レトロで使い古された、しかしよくよく手入れの行き届いた薪ストーブの、火の世話をしていました。
「ここから真北1キロに、領事館があるんです」
お題回収役のその男は、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織の、そこそこエリートな局員。
「ツバメ」という名前を貸与されています。
「いわゆるコロナ禍が始まる1〜2年前、
私達法務部が、不明な建造物を見つけましてね。
その初動調査に出たのが、私でした」
管理局の言う「不明な建造物」とはつまり、
この世界の外の技術・魔法・アイテム等々が使用された、異世界の建築物。
ツバメたち世界線管理局の法務部は「その世界に存在してはならないもの」を調査して、監視して、
そして、その世界がその世界で在り続けられるように、他の世界によって侵略されないように、
為すべきことを、為すのでした。
で、それと今回のお題の「遠い日のぬくもり」の
どこがどういう関係で結びつくかといいますと。
「奥多摩地域で氷点下を記録した夜でした」
パチン。 ストーブに入る空気を調整しながら、
ツバメが遠い日のぬくもりについて言いました。
「東京であそこまで下がるなど、想像しなかった私は、防寒という防寒の準備が不十分でした」
完全に油断していたんです。
ツバメはそう続けて、薪ストーブの上で熱しておった金属ケトルを下ろして、タピタピタピ。
中挽きのコーヒーの上に湯を落としました。
「完全に体が冷え切って、意識が遠のいて、
気がつけば、この小屋の中、薪ストーブの前。
チーズとハムを挟んだパンと、それから、温かいコーヒーが準備されていました。
小屋から誰かが出ていく気配がして、
礼を言おうと追っていって、しかし間に合わず、
それでもその人の影だけは……美しい女性の影だけは、間違いなく、見たんです」
恋ではありませんよ。
何かこう、奇跡に会ったというか、そんな。
神秘体験のそれですよね。
丁寧に蒸らして淹れたコーヒーを味見して、
ツバメは満足そうに、頷きます。
上手に入ったのでしょう。
「それ以来、つい最近まで、コーヒーといえばその神秘体験でした。 つい最近までね。」
ぎゃあん! ぎゃあん!
大人のホンドギツネが小屋の近くで吠えています。
パチ、ぱち、 ぱきん。
大きめの杉の薪がストーブの中で音をたてます。
「安心してください。ちゃんとオチが有ります」
コーヒーと薪ストーブの、遠い日のぬくもりを、
ツバメはこうして締めくくりました。
「女性だと思ってたその神秘、
ウチの管理局の法務部長だったんです。
男です。オネェだったんです。っていう。
……恋じゃなかったのは事実ですけど、ウチの上司の上司を、一時的に女神かなんかと……ねぇ」
もう、なんなんでしょね。うん。
ツバメはため息ひとつ吐いて、遠いその日に用意されていたものと同じ味のコーヒーを、
ひとくち、飲みましたとさ。
12/25/2025, 6:55:28 AM