仮世界

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「まだ、落ちたくないね」

秋の香りが無くなりかけていた頃、君はそう言った。

落葉樹の林の中、痩せこけた一本の木、
そこには2枚の枯葉が寂しげに揺れていた。

「そうだね。落ち葉になったら、ガサガサ音を立てることしかできなくなる。」

「"落ち葉"なんて差別用語、使っちゃいけないわ。私たちも、あの子たちも、同じ葉っぱなのよ。それに──」

「私たちも、もうじき落ちるのよ。だろ?分かってるよ。でも、まだ受け止めきれないんだ。」

「どうして...」

この木には、僕たち2枚しか残っていない。
全ての葉が落ちきったら、きっと春に向けて若葉が芽吹く準備を始めるだろう。
そしたらもう、君には逢えないような気がする。

遠くの方で年中姿の変わらない常緑樹が緑色の葉を揺らしている。
その風も、数秒足らずで僕たちのところにやってくるだろう。

最後に、伝えたいことをはっきり言おう。

「まだ、君と離れたくないんだ。」

君は微笑んだ。
その頬には、かすかに紅葉の色が戻ったように見える。

僕も微笑み返す。

それから間も無くして、風が吹き荒れた。
自然を無慈悲にかけめぐる強風は、2枚の葉を空気で覆い、いとも簡単に、命綱を断ち切った。

もとから2枚の葉が重なっていたかのように、君は翼を開いた。隙間から鮮やかな橙色が覗いている。

僕は枝の下の方へ運ばれ、君は上の方へ。

全てを理解した僕は、もう一度笑う。

僕は、ずっと騙されていたのか。
君が、枯葉に擬態するコノハチョウだったとは。

2/20/2026, 4:41:47 AM