ぽんまんじゅう

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〈ぬくもりの記憶〉



 『第三の試練 ぬくもりの記憶を一つ捨てよ』
指示が書かれた石碑の前で、1人の冒険者が葛藤していた。彼は全ての願いを叶えてくれるという、伝説の結晶を探しに来ていた。それを手に入れる為には三つの試練を乗り越えなければならない。一つ目の試練はドラゴンと戦い、倒すこと。国でも一、二を争う剣術の持ち主である彼はこの試練を無傷で乗り越えた。二つ目の試練は謎解きだった。始めは意味が全く理解出来ず途方に暮れたが、頭を柔らかくして見方を変えると簡単に解くことができた。そして今、彼は最後の三つ目の「犠牲の試練」に直面している。
 彼には温かい記憶は一つしか無かった。それは孤児だった彼に親切にし、立派な騎士に育ててくれた王との記憶だ。今回結晶を探しに来たのも恩人である王に更に大きな権力を与える為だった。そのような大切な記憶を捨てる決意は中々つかなかったが、彼はようやく決心した。石碑に手を当て、目を閉じる。王との楽しい記憶を思い浮かべるとそれが次第にぼやけ、消えていった。冷たくなった胸に残ったのはこれまで王を信頼してきたせいで気が付かなかった、王の狡猾で残虐な記憶だけだ。彼は親切にされたように見せかけて、本当は利用されていただけだったのだ。
 すべてのぬくもりの記憶が消えると目の前の扉が開き、長年探し求めてきた結晶が出てきた。しかし彼は王の為に持ち帰るつもりだったそれに自分の願いを言った。
「俺を最強の王にしろ」

12/11/2025, 7:33:15 AM