お気に入り(オリジナル)
大学が遠くなった事をきっかけに家を出た。
そのまま就職して、実家に帰るのは年に1回あるかどうか、といったところである。
どこの家でもそうだと思うが、たまに帰ると食事の量がすごい。
昔の人は子供にはお腹いっぱい食べさせる事が愛情だと思っている節があり、食べきれないほどの料理が並ぶ。
都会に出た私はそこそこ収入もあり、たまに高級料理店に行ったりもして、舌が肥えた。
実家がどれだけ貧しくて、親がどれだけ料理が下手であったか、十分にわかってしまった。
昔の好物も、今はそれほど好物ではない。
けれども、親はいつまでも情報を更新せず、昔の私の好物を山ほど用意する。
「これ、ナナちゃん好きだったよね」
ニコニコと、母が言う。
「今日、お父さんが並んで買ってきてくれたのよ」
地元のさびれたたい焼き屋さんのたい焼き。
安くて人気だけれど、薄くて値段相応のクオリティ。
母の手料理も並ぶ。
昔から美味しくなかったけれど、子供心に親を悲しませたくなくて、美味しい美味しいと言って食べていたら、こういう味が好きなのだと誤解させてしまった。
「毎回こんなに作ってくれなくて良いのに。大変でしょ」
やんわり断ってみるのだが、伝わらない。
「あなた、あまり帰って来ないでしょ。私もご馳走作ってお迎えしたいのよ。たまには良いじゃない」
さいですか。
今年も作戦失敗である。
しかし、若い頃は本当に迷惑で苦痛だったこの好意も、最近ちょっと楽しくなってきた。
少しは仕送りしているけれど、今もおそらく貧乏である親が、精一杯用意してくれたご飯。
私が喜ぶだろうと、ウキウキたい焼きを買いに行ったであろう高齢の父。
なんだかくすぐったくて、涙が出そうになる。
嬉しそうな両親を見て、私も嬉しくなる。
あと何回、こんな時間を過ごせるだろうか。
2/17/2026, 11:32:12 AM