『私の可愛い眷属』
アロマなのだろうか、部屋にはラベンダーのような花の香りが漂っていた。その香りを嗅ぐたびにに体の力が抜け、眠気が襲ってくる。
「あら、もう日付が変わるのね」
その声に導かれるように時計を見ると、針は11時50分を指していた。
女性は準備が終わったのか、長いスカートを持ち、私の目の前に立った。私は椅子に座っているので、必然的に彼女を見上げることになる。
「さぁ、準備が終わったわ」
彼女が指輪を嵌める。
「彼の為にこれまでの自分を捨てるだなんて随分思い切ったわね」
そう面白そうに言う彼女を少し睨でしまったのは仕方がないことだろう。「まぁ怖い」とクスクス笑う彼女は全く怖がってなどいなかった。
「早くしてください。時間がないんです」
「わかっているわ。
…最後の確認よ。私たちの仲間になると今までの生活には絶対に戻れない。それでも本当に悔いは無い?」
「ない」
そう言い切った私に彼女はゆるりと目を細めて「そう」と嬉しそうな声を出した。
「じゃあ、目をつぶって。今日までの自分にさよならをしましょう」
彼女の言葉通り目をつぶる。彼女の指先が私の額に触れた感触がした。時計がボーンと鳴ると同時に、私の意識は暗い闇へと呑まれていった。
最後に聞こえたのは彼女のクスクスと笑う声だった。
「さぁ、起きて。私の____」
【今日にさよなら】
2/18/2026, 5:05:36 PM