揺れるキャンドルは風前の灯火
この火が消える時、私の命も消えるだろう
そしてきっと、その時は遠くない
死神の足音はすぐそこまで来ている
贅沢は言わないが、最期に家族に会いたかった
好物のコロッケを食べたかった
だが、そうもいかない
もうじき、私の寿命も尽きる
蝋も溶けて、あと僅かしか残されていないようだ
ついに私の目の前に死神が現れ……
その後ろからやって来た別の神によって殴り飛ばされた
何だこの光景は
「何をするんですか、生命の女神!」
死神がドクロ顔でカタカタ文句を言う
仕事の邪魔をされて立腹しているようだ
腹はなく、骨しかないが
「殴ったのはごめんね
でも時間がなかったから
あのままだと、この人の魂を送っちゃってたでしょ?」
生命の女神は少し申し訳なさそうに言った
「阻止したということは……この者はまだ死ぬべき時ではないと?」
「生まれる時、手違いで短いキャンドルを渡しちゃってたのよ
うっかりしてたわ」
どうやら、私は本来の寿命より短く設定されていたらしい
そういうのは気をつけてくれ
そちらにとっては多くいる人類の中のひとりでも、私にとって命はひとつなのだから
しかしこの流れだと私はもう少し生きられるのか?
「ハァ
不注意にも程があるでしょう
人の命をなんだと思ってるんですか」
死神がなんか言ってる
いや、寿命を迎えた魂を狩って送る死神だからこそ、命の重みを知っているのかもしれない
「ということで、ごめんね?
お詫びに本来の寿命より長く生かしてあげるから許して?」
ちょっとずるい気もするが、原因は向こうのミスだし、もらえる寿命は遠慮なくもらっておこう
私もちょうど長生きというものをしてみたいと常々思っていたのだ
「じゃあ、キャンドルをゴッドLEDに変えておくね
これで火よりも長く生きられるし、ちょっとやそっとのことじゃ死なないわよ」
ゴッドLEDがなんなのかは知らないが、きっとLEDよりも長寿命の電気なのだろう
ありがたいことだ
今まで重かったのに、なんだか体が軽く、元気になっている気がする
体の奥底から健康なのを感じるくらいに、私は絶好調だ
「まったく
今度から本当に気をつけてくださいよ?」
「うん、なにか対策を考えておくよ」
二柱の神はそんなことを言いながら、去っていく
去り際に死神がこちらに振り向いた
「しばらく僕の出番はないようなので、安心してください
では、いずれ遠い未来に会いましょう」
そう言うと死神は私に手を振って、そのまま生命の女神と共に消えるのだった
なんとも、性格の良さそうな死神だったな
生命の女神も、親近感のわく神だったし
また会いたい、とはあまり思わないが……
さて
このあと、家族が瀕死であるはずの私がピンピンしているのを見て、大層驚いた後に大喜びしてくれた
そういうのを見ると、生きててよかったと思えるな
12/23/2025, 12:27:20 PM