〈ささやかな約束〉【途中】
「わあ!このパイすごく美味しい!」
小さな女の子がフォークを片手に小さな足をパタパタとしながら喜んだ。
「そうか。そんなに喜んでくれるなら頑張って作った甲斐があったな。」
父親は彼女に微笑みかけた。
「お父さん、これまた作って!」
「ああ、勿論。約束だ」
「やったー!約束だね」
彼女が細い薬指を差し出してきたので指切りをした。
「もし作ってくれなかったら針千本…は怖いからお父さんの万年筆貰っちゃうからね」
彼女がそう言うので二人で笑った。
彼女は彼の実の娘ではない。戦争で亡くなった兄の子だ。だが、当時彼女はあまりにも小さかったので実の親のことは覚えておらず、彼のことを本当の父だと思っている。彼女が大きくなったら話すつもりだ。
翌朝、彼女を託児所に預け、彼はいつものように少し離れた町にある農場へ向かった。給料はそれほど多くはないが農場主は親切で子育てにも理解があり、良い職場だ。仕事を始めるとけたたましく鐘が聞こえてきた。
「敵襲だ!」
彼らは鋤を投げ捨てて逃げ出した。街では人々が逃げ惑っている。あちらこちらで叫び声が聞こえた。
11/15/2025, 9:26:41 AM