こはくとう

Open App

 「遠雷か。嵐がくる。」
旅人は1人でそう呟いた。旅人は周りを見渡し、嵐に耐えられそうな場所を探し始めた。岩の小さなくぼみを見つけ、旅人は嵐が去るまでそこに留まることにした。

 しかし、そこには先客がいた。齢10くらいだろうか。少女が倒れている。旅人はめんどくさそうにため息をつき、他の場所を探そうとくぼみを出ようとする。
 ぐいっ
 いつ起きたのか、少女が旅人の足をつかんだ。
「…放せ。」
「いやよ。」
「放せ。」
「じゃあ、ここにいて。」
少女はやつれてはいるものの、強気な表情で言った。
旅人は無表情のまま抗議する。
「お前のことは俺には関係ない。1人分の食事を確保するだけでも大変なんだ。俺は1人で行動する。」
「遠雷が聞こえたでしょう。嵐が来るわよ。この近くに嵐を耐えしのげるような穴は他にないわ。」
「そのようだな。お前がすでに嵐だ。」
少女はむっとした表情をしたが、旅人が荷物をおろし始め、ここに留まることが分かったので、嬉しそうににっこりした。

 その夜、本格的に嵐がやって来た。
「どうしてお前みたいな子供がここにいるんだ。」
嵐のうるささの中、2人は会話する
「あなた、家族はいないの?」
「話を反らすな。」
「どうして1人なの?」
「…俺にも家族はいたさ。妻がいたんだ。娘もな。」
少女に押し負けた旅人が答える。
「その人たちはどうなったの?」
「妻は死んだ。娘を生んでから体調を崩してな。娘は祖父母が引き取った。お前みたいなやつには預けられないと言われたんだ。もともと、俺は祖父母に嫌われていたからな。」
どうせすぐにわかれる仲だからいいだろうと思い、旅人は話した。
「へぇ…。どうして旅しているの?」
「町に居場所が無かった。俺の居場所は妻と娘が居る場所だった。妻と娘がいれば、俺はどこでも良かったんだ。でも…誰もいないところは気軽でいいだろう?」
旅人は淡々と話す。
「そう言うお前はなんなんだ。なんでこんなところに。」
「ちょっと知りたいことがあったの。」
「そのちょっとのためにここまで来るのかよ。」
「もちろんよ。でももう知れたわ。」
少女はにっこりする。
「じゃあ子供は早く帰るんだな。」
 いつの間にか嵐は止んでいた。くぼみから顔を出して、少女は空を見上げる。
「ねえ、私ね、今日楽しかった。これまで辛いことがたくさんで、何も出来なかった。」
少女の表情が寂しそうな笑顔に変わる。
旅人は何か、既視感を覚える。
「ねえ、私ね、知れてよかった。あなたが娘を愛していたこと。」
「ねえ、私はもうここにはいられないの…。おじいちゃんもおばあちゃんもわたしのこと愛してくれてなかった。ご飯くれなかった。痛かった。辛かった。」
旅人は気付く。
少女は涙をながす。
「生きてるうちに来れたら良かった…。パパ…。」
「お前…ハンナか。」
「ずっと言いたくて、心の中に閉じ込めてたの。ずっと辛かったのが、辛くなくなったときね、私の心の中のうずうずを遠雷がパパのところにつれてってくれたよ。」
「そうだったのか…。ハンナ…ごめんな…。」
「いいよ。ね、パパ、ぎゅーして」
旅人は1年ほど流してなかった涙を流す。
「「愛してる…」」
気付いたときハンナは消えていた。

遠雷が鳴っている…。



8/23/2025, 12:05:05 PM