「木漏れ日の跡」
光で照らされた薄緑
そこに散りばめられた宝石たち
色褪せる事も知らないだろう
そう思わせる程に
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「何寝てるんだい」
その一言で私の目は不機嫌そうに開いた。視界の前に広がっていたのは何処にでもあるソメイヨシノで、桜は散り、すっかり大きな緑の葉を身に付けていた。
「誰が何処で寝ようが勝手だろう」
私はそう言って上半身を起こした。私を起こしたのは友だった。ここ最近は色々と立て込んでいて、集まりも無かった。恐らく偶然だろう。
「ガキみてぇに地面の上で寝っ転がってんじゃねぇよ。汚れんだろ」
その言葉に私は少しムッとして言い返してやろうとしたが、言葉が不思議と出なかった。それを見ていた友は眉を上げ、不思議そうに問うてきた。
「どうしたよ、いつもハキハキと物言う癖に」
「いや、ただ子供は舐めちゃいけねぇなってふと思っただけだ」
言う前に想像して気付かされた。自分も半分子供だった。全く友の言う通りである。こんな虫が付いてきても文句が言えない場所で寝っ転がるなんて、大人は忌避するだろう。だが不快感は無かった。寧ろ心は青く爽快だった。仕事やら今後の悩みやらで悩んでいたのが嘘のよう。きっと、悩みの手っ取り早い解決法は子供が一番多く知っている。
人間とは不思議だ。成長する程大切な事を忘れる。
「何訳の分からねぇこと言ってんだ、まぁ飲む約束もしてねぇからそのまま帰るわ」
友は少し困惑した顔を見せた後、そのまま帰っていった。そんな友の後ろ姿を何も考えずに見ていた。しかし、ふと思い納得した事があった。
「あいつも見方変えれば子供か」
そんな考えを鼻で笑い空を見上げた。
そこに跡は無かった。
了
11/15/2025, 12:52:17 PM