氷見どり

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『永遠なんて、ないけれど』


 今世が終わるまではせめて僕と一緒にいてほしい。そんな決死のプロポーズを君は笑い飛ばした。無理もない、今日ですべて終わるのだ。

 13日前に「小惑星が地球に急接近する」というニュースを見たとき、過労で上手く回転しない僕の頭に浮かんだのは、忙しくて見れていなかった映画のこと、タンスの奥に持て余したナツツバキの種のこと、それから、家で待つ恋人のこと。
 2週間後に地球が終わるとしても無責任になりきれない僕はまず、貴重な1時間を辞表を書くことに費やした。そんな僕を見る君の、呆れたような表情は、40分も経つとなんだか可笑しそうな表情に変わってしまって、それから少し経った後、僕を旅行に誘った。
 箱根で過ごした7日間はなんとも穏やかで、こんな場所があと6日で無くなるなんて、と他人事のように呟いた。
 衝突まで残り5日ともなると、街は僕たちが出歩けるような様子ではなくなってしまった。都市機能は壊滅し、犯罪は日常になった。幸いにも2人が5日間生きていくだけの十分な食糧はあったので、僕と恋人は4階の白い1LDKに籠城することにした。
 衝突まで残り1日。僕は、ずっと大切に準備してきた言葉を取り出してみることにした。そしてようやく冒頭に戻る、といった訳だ。
 僕の、気障で的外れなプロポーズを受けた君は、ひとしきり笑った後、僕の言葉には答えず、袋を取り出した。じゃーん!と得意気にそれを掲げる。
 「セロリ、育ててみたかったんだよね。」
 衝突まで残り4時間。僕はあろうことか、恋人とセロリを植えていた。君が急に、かしこまった様子でこちらに向き直る。
 「恭介、セロリの花言葉って何だと思う。」
 僕が口を開こうとするのを遮るように短くこう言う。
 「永遠の愛」
 思わず君の目を見る。君はもう僕からは目を逸らしてしまって、慈しむようにセロリの種を蒔いていた。柔らかなその黒髪を金風が撫でて、ずっとこうしていたい、という思いと、今すぐ地球が滅亡してしまえばいいのに、という思いが僕の心を埋め尽くしてした。
 ねえ、蓮。僕だけの可愛い恋人。
 僕は本当はセロリの花言葉が何か知ってたよ。
 君のでたらめな愛情が、たまらなく愛おしかった。

9/29/2025, 4:50:15 AM