空蝉

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 突然の君の訪問

 やあやあ。と言いながら入ってくるこの人は
 今日も靴を脱ぎ散らかして無遠慮に狭い部屋を占領する
 隠す気もない首元の跡がちらちらと目に痛い

 ふらふらした足取りが心もとない
 かなり酔ってるみたいだからコップに水をついで持っていく

 あれ消えた。あぁタバコか。

 どうやらベランダに移動したようだ
 
 タバコの煙と共に肺を侵食するのはいっつも違う香水

 僕ではない誰かの匂い

 今日は渋め。

 風が吹く度、鼻を掠めるそれは僕をいつも淋しくさせる
 
 それにあんな高そうな時計、前はつけてなかった。

「それあげた人趣味悪いね。もっと明るい色のが似合うよ。」
 
 すこしイライラしたから言ってみたけど、

「ふふ。」って

 どうして笑うんだろう。僕があんまり子供みたいだから?
 顔も知らない大人に、嫉妬してみっともない?
 勝てるわけないのに対抗してて面白い?
 どうやったって叶わないのに必死になって、情けない?

 ねぇ、それ美味しいの?夜は寂しい?仕事辛い?
 酔ったら楽しい?なにか忘れたいことがあるの?
 明日も誰かのとこに行くの?
 ここにはいつまで来てくれる?
 ほんとは僕のこと、どう思ってる?

 教えてくれなくてもいいよ。
 だからもう少しここでタバコ吸っててよ。
 横顔ずっと見ていたいよ。
 こんなこと間違っても口に出さないからさ、
 また来てよ。

 

8/28/2024, 4:28:13 PM