氷見どり

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『星になる』


「傲慢だと思う、人間に生き物の名前をつけるって」
 互いに自己紹介したばかりの相手にそんなことを言われると思わなかった。少なからずムッとしたが、相手の名札にちらりと目を落とすと「小林 蛍」とあり、思わず吹き出してしまった。
 彼は、不服そうな顔になった後、嫌味ったらしく付け加えた。
「『燕』さんはさ、どう思うの。願いを込めるべき人の名前に、生き物の名前がそのまま使われるなんて。」
「可愛くない?燕って。」
「そんな基準で名前をつけることが理解できない。面白がって犬に『ねこ』って名前つけるのと同じことだ。」
「うちの実家のマルチーズの名前、たぬきだったよ。」
 ますます眉間に皺を寄せた蛍くんに尋ねる。
「じゃあ小林くんは自分の名前どう思ってるの。」
「儚さの象徴なんて、早死にしそうで嫌だよ。」
 ネチネチと面倒な人だと思っていたが、励まされたがるかまってちゃんに思えてきて何だか可哀想だった。
「私小さいとき、蛍って星が落ちてきて舞ってるんだと思ってた。」
 怪訝そうに眉をひそめる蛍くんに続ける。
「お尻光らせて求愛してるって聞いたら滑稽かもしれないけど、他の生き物から見たら希望の星に見えるって素敵じゃない。星になれる機会って鳥とか人間には中々回ってこないんだから。」
 目の前の顔が、意外とか薄笑いとかコロコロと百面相を繰り返した後にわざとらしく元の無愛想な形を作り口を開いた。
「星になるってやっぱり短命の象徴ですね。」
 耐えきれず顔を綻ばせた蛍くんは輝ける人だった。

12/14/2025, 2:46:31 PM