時を結ぶリボン
近所を散歩していると『喫茶リボン』と書かれた喫茶店を見つけた。前からこんな所にあったっけ?
可愛らしい店名に反して見るからに古そうな店構えに無意識に足が向いて、店の扉を開けてみる。
中にはマスターがひとり。
「…いらっしゃいませ。」
「あ、えっと、まだ始まってなかったですか?」
薄暗くて伽藍どうとした店内の様子につい尻込みしてしまった。
「やってますよ。…どうぞ。」
スッとカウンターへ案内されると、マスターがトレーに乗ったカラフルなリボンをわたしの目の前に置いた。
「これ、は?」
「どうぞ好きな年代をお選びください。」
年代?リボンをよく見るとそれぞれ『70年代』『80年代』『90年代』『2000年代』『2010年代』と刺繍がされていた。
意味はわからなかったけれど、試しに80年代と刺繍されたリボンを取る。
その瞬間、プツンと意識が一瞬切れて再び目を覚ますと、同じ喫茶店の同じカウンターに座っていた。いつの間にか店内は賑わっていて、見渡すとなんだか古い、よくテレビで見るような昭和レトロな風貌の人たちでひしめき合っていた。
変わらないのはマスターだけで思わず声を掛けた。
「あ、あの!さっき、このリボンを取ったらなんか気を失ってしまったみたいで。えっと、なんか、さっきとお店の様子が違くて。」
「先ほどお客様に選んでいただいたリボンは"時を結ぶリボン"この喫茶店の過去へタイムスリップできるものです。リボンを手にしている間のみ、お客様が選んだ時代の喫茶店へタイムスリップできます。」
あまりに突拍子もなくて、理解が追いつかないわたしは思わず笑い出した。
「また来ます。」
「ご来店お待ちしております。」
それがわたしとマスターの最後の会話だった。
『喫茶リボン』跡形も無くなってしまった、あの不思議な喫茶店。わたしは今も探し続けている。
12/21/2025, 1:54:20 AM