蓼 つづみ

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百円で買ったグラスは、
背が低く、じっとしていない。
ロッキンググラスとか、
スウィンググラスとか呼ばれるらしい。

底は丸く突出している。
柄は点と線と丸で散らばり、
花にも花火にも見える。
ボヘミアン風の模様だという。

本場かどうかは重要じゃない。
いま、私の手の中でゆらゆらしている。
それだけでいい。

フラットな面はなく、
どこを正面にすればいいのか分からない。
だから、どこから見てもいい。

パックの安い白ワインを注ぐと、
模様の隙間を光が泳ぐ。

触れなくても、
ワインの重みだけで
ゆら、と生き物みたいに揺れる。

高くもないし、特別でもない。
けれど「安い」という事実は、
むしろ気楽さをくれる。
失敗してもいい。
こぼしてもいい。
気取らなくていい。

そのグラスは、
背伸びしなくていい夜を許してくれる。

艶っぽさじゃなく、
きらっとした無邪気さ。

いたずらを思いついた子どもみたいに、
「ほら見て」と揺れてくる。

ちゃんと立ちなさいよ、と
言われそうなのに、
わざと少しふらふらしている。
でも倒れない。
そこがまた、可愛い。

白ワインの淡い色を抱えて、
ゆら、ゆら。
光を遊ばせる。

自分が魅せていると
気づいていない色気。

ダイソーで一目惚れして、
連れて帰った。

完璧じゃない夜に、
ちょうどいい。

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2/17/2026, 11:05:59 AM