冬至。

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               こりずにびーえる。


「はっぴぃばれんたいん!」
そんな声と同時に現れた彼は大きなバラの花束を抱えて入って来た。
「はい、俺の気持ちだよ」
渡されたその花束のバラの本数は33本だった。
“何があっても変わらない愛”
それを意味している。
この前は11本。あなたひとりだけ。
その前は1本。あなただけ。
どんどん増えていく。
その意味はちゃんと理解している。
だけど素知らぬふりで受け止める。
知らないふり。
気付かないふり。
「ありがとう。おれ食べ物がよかったなー」
なんて目を合わさないでいると不意に手首を掴まれて顔を覗かれる。
「俺には?俺にはなんかないの?」
思わず意識してしまいそうなのを知られないように咄嗟にその手を振り解く。
「あ、あるよあるある!」
ほらこれ。なんて彼の目の前に差し出したそれ。
「これなに?」
目の前に突然差し出された箱を不審げに見つめている彼に。
「開けてみてよ」
丁寧にその箱を開ける彼は、そこから出て来たものを不思議そうに見た。
「これなに…アップルパイ?」
「そう、それ!俺が作った!」
「お前が!?何これ食べれんの?」
「お前何気に失礼だな!!」
「うそうそ。嬉しいありがと」
決して上手に作れてないそのアップルパイと言い張っているそれを目の前の彼は嬉しそうに見つめる。
「これ食べてみてもいい?」
「どーぞどーぞ」
味に保証は出来ないけど。
彼はあらかじめ食べやすくカットしてたアップルパイをひとつ摘んで口に入れる。
それを心配そうに見つめて様子を伺っていると。
彼は味わうように咀嚼してひとつ頷いて笑った。
「美味しいよ。君も食べて」
そのひと口かじったアップルパイをおれの口元に運んでくる。
少したじろいで後ずさるけど追いかけて来るから諦めてそのままかじった。
さくり。
見た目は悪いけど味は成功したみたいだ。
安心してるおれに向かって突如伸びて来た手に驚いて身を引く。
「口の端。付いてる」
そのままなおも伸びて来た手に口の端を軽く拭かれた。
「ありがと」
お礼を言うとにっこり笑われた。
「でも何でアップルパイ?俺好きって言ったっけ?」
「それともこれもなんか意味があったりする?」
「いや別に」
「ふぅん」と何やら納得してない様子でスマホを取り出す。
「何してんの?」
「いや。アップルパイの意味調べようと思って…」
「別に調べなくていいよ!!これと言って意味なんてないから」
慌てて彼の手からスマホをひったくる。
スマホを取り返すべく伸びて来た手に取られまいと必死でスマホを遠ざける。
後ろ手に隠したスマホ。
取り返すその手。
図らずしも抱き付かれるカタチになった。
「絶対何か意味あるでしょ」
近くで見つめられて必死で目を逸らす。
「円周率!!」
「…は?」
必死で叫んだおれの言葉が理解出来なくて彼は間抜けな声を出した。
「円周率ってなにそれ」
「円周率は円周率だよ。π(パイ)!」
「もしかしてパイってあのπ?」
やや間をあけて呆れたように聞き返す。
「駄洒落かよー」
ぎゅっと抱きしめられた。
「もっと深い意味であってくれよー」
ため息をついてさらに力を込めて抱きしめる。
「深い意味って何だよ」
笑いながら答えるけど心は乱れてる。必死だ。
「そりゃあ、好きとか。死ぬほど愛してるとか?」
「馬鹿じゃないのお前」
「ひどい」
「お前こそ頭おかしいんじゃないのか?」
「俺はいつでも本気だよー。あいしてるー」
なおも一層ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
「はいはい」
適当に返事してその背中を軽くポンポンと叩く。
「俺はいつでも待ってるからなー」
耳元で聞こえた声は聞こえないふりした。

アップルパイの贈り物の意味は永遠に続く愛。
その意味を彼は知らなくていい。
まだ彼の想いには応えられないから。
でもいつか。
いつかちゃんと言うから待ってて。
おれも、お前が好きだよ。


                  (待ってて)

2/14/2026, 9:59:14 AM