昼休み。
ぽかぽか陽気に誘われて、友だちとふたりで会社のベンチに陣取り凝り固まった手足を存分に伸ばす。
「あーこうやって一日中日向ぼっこして過ごしたーい」
「わかるー」
「ここからもう動きたくないよー」
降りそそぐ日差しがじんわり身体に心地いい。
目を瞑り天を仰ぐ。
「でもきっと何もしなくてよくて一生ぼーっとして過ごしたらそれはそれで退屈だとか言い出しそうあたし」
「社畜的発言してる」
「不自由の中でしかそのありがたみが分からないなんて人間て悲しくて傲慢な生き物ね」
ふっと真面目な顔をして隣りの友だちの顔を見つめる。
「なになにどした?突然哲学的な…?」
「意味はない」
ふたり顔を合わせて笑い合う。
今日も平和だー。
「またサボってるんですか」
そこに突然後ろから声が飛んできた。
声がする方にふたりして振り返る。
お昼ごはんをどこかで買って来たのか小さなビニール袋を手に下げた後輩くんが紙パックのカフェオレなんて飲みながらこちらに向かってくる。
「営業部のエースさんは太陽みたいな素敵な笑顔で何不自由なく生きてそうね」
「先輩こそ見てる限りじゃ悩みなく生きてそうですけどね」
「嫌味なやつ」
「お互いさまです」
「あんた達相変わらずだねー」
横に居る友だちがあたしと後輩の顔を交互に見て笑う。
お互いに笑いながらいつもの軽い悪口を交えた挨拶を交わしてるとまた遠くから声が掛かった。
「あー先輩方コイツ俺のなんで手ぇ出さないでくださいよー」
「出た出た。あんたの彼氏来たよ」
「彼氏じゃないっス」
そう言いながら飲んでる途中のカフェオレを隣りに追い付いたもう一人の後輩くんの口に向けて差し出す。
当たり前のように受け取った彼はそれを飲みながら隣りの手に下げられた袋の中身を物色し出した。
「君らも今日は外なの?」
「あー天気いいんでこいつが外で食べようって」
親指を立てて横にいる彼を指し示す。
袋をがさごそ漁っていた後輩くんは視線を一度うちらに向けてそして花が咲いたようににっこりと笑った。
「こんなに天気がいいのに外で食べないの勿体無いっすよ」
そして隣りの後輩くんを促すようにちらりと視線を送った。
それを受けて彼はくしゃりと隣りの彼の髪を軽く撫でて
「じゃあ先輩方俺らお腹ぺこぺこなんでこの辺でー」
憎らしいぐらいの満面の笑顔で片手をあげて軽く挨拶してふたり連れ添って去って行った。
「何なのあいつら」
「笑顔が眩しいわー」
さっきから蔑ろになっていたお弁当をふたりしてつつく。
「やばいやばい。うちらおばさんみたいな発言になってる」
「もう若さが眩しくて目に染みる」
けらけらと隣りで笑う声が気持ちいい。
まるでお日さまの陽だまりのよう。
そんな声を聞きながらここに根が生えたらどうしようとかどうでもいい事を考える。
ひとりでにやにやしてると横から声が掛かった。
「ひとりで笑ってどしたー?」
「気持ちよすぎて根が生えそうよ」
「何だよそれ。生えちゃえ生えちゃえ!!」
「このまま午後の仕事ブッチしようかー」
なんて実行しない事を口に出して笑い合う。
ココロも身体も充電チャージして。
さてさて、今日もがんばろう。
「こんなにぽかぽか陽気だとお昼から絶対眠いよねー」
「だねだねー」
暖かな日差しを浴びながらもう一度思いっきり身体を伸ばした。
(太陽のような)
「ねぇ。なんで怒ってるの?教えてよ」
平謝りしてくるあいつの顔を睨みつけてやる。
「おれ何かした?」
「…覚えてないんだろ」
「だからそれはごめんて。おれお前に何したの?」
「自分の胸に聞いてみろ」
「一緒に帰ったところまでは覚えてるんだよなー」
白々しく頭をぽりぽりかきながら空を見上げてポツリと呟く。
毎回毎回こいつはこうだ。
飲み会後は必ず記憶を失くす。
酒に飲まれる男なんてサイテーだ。
「ねぇ」
ずしりと肩に重みを感じた。
「怒んないでよー。謝るから教えて」
甘ったるい声を出しても教えるもんか。
無視してると懲りずにずっと絡みついてくる。
「じゃあさ、最初からやり直そー。一緒に帰ったところから!それならきっと思い出すよ」
「無理」
「なんでだよ!絶対思い出してみせるよ!!」
思い出したところでどうするって言うんだ。
お前がオレにキスしたなんて。
やり直したってまたどうせ忘れるそんなもの。
(0からの)
今日にさよなら明日のあたし。
パリパリと剥がれ落ちて今日のあたしが落ちていく。
薄皮一枚の虚像を落として曝け出す。
脱ぎ捨てたニセモノの自分さよなら。
また明日拾ってきれいに着飾るね。
だから今だけだから許してね。
一日の終わりに近づくたびにパラパラと剥がれ落ちて本心が露わになっていく。
もう偽らなくてもいいんだよ。
形ばかりの笑顔もいらない。
全部全部脱ぎ捨てて。
まともなフリしなくていいよ。
少しぐらい好きなように衝動的に動いたっていいんだよ。
全部全部脱ぎ捨てて一切合切剥がれ落ちて本心を露わにして落ちていく感情。
痛いの気にしないふり。
全然平気。…嘘。
平気じゃなかったよね。
しんどかったよね。
泣いたっていいんだよ。
思いっきり泣いてしまおう。
はらはらと自分が落ちていく。
落ちて落ちて落ちて。
またかき集めて明日の自分を作る。
とりあえず、今日のあたしにさようなら。
少しずつ足りなくなっていく自分をかき集めてまた明日のあたしになる。
(今日にさよなら)
びーえるですよ。
つい先日、腐れ縁の幼馴染が何でかめでたく恋人になった。
変わり映えしない雑談。
ふざけ合う日常。
そして。
そっと繋ぐ机の下。
指と指が意味を持って繋がれるそれ。
少し気恥ずかしくて甘ずっぱい。
「イチャつくタイミング難しいな」
顔を見合わせて笑った。
いつもと変わらないじゃれあいの先のほんのり赤くなるその頬が俺の密かなお気に入り。
俺のびゅーてぃほーな彼氏のはにかむようなその笑顔。
好きだなぁって思う。
いやむしろ大好き。
力いっぱい抱きしめ殺したい!!
見惚れてると目と目がばっちり合って訳もなく笑ってそれから。
視線に熱がこもるのを感じて堪らず顔を近付ける。
すると向こうも自然と近付いてきてそっとくちびるを合わせた。
軽くキスして気恥ずかしくてすぐ離れる。
「なんかこーいうの照れるな」
「なー。むしろ付き合う前の方が気軽に出来てたな」
「確かに」
見つめ合って笑い合う。
「でももう俺はダチには戻りたくねーな」
そう言って勢いよく引き寄せると彼は大きく目を見開いてそしてこれでもかってぐらい微笑んだ。
ほら見て俺の彼氏超絶可愛い。
そのまま勢いで彼のくちびるに軽く噛みついた。
「お前…」
「まじお前食べちゃいたいがぶがぶー」
何度も何度も彼のくちびるを甘噛みして食べる真似をする。
彼は笑いながら俺を引き剥がそうと試みてるけどその手が本気じゃない事を俺は知っている。
まじで可愛い俺の恋人。
普段は変わらない腐れ縁の幼馴染だけどその中に最近ひょっこり顔を出すこの甘い時間が俺のお気に入りだったりする。
(お気に入り)
どんな状況でも、どんな状態でも舞えればそれでいいと思っていた。
「おまえは芸と命、どちらを選ぶ?」
その昔、そう問われたとき迷う事なく芸を選んだ。
でも旦那と出逢ってしまってからはそれが正しいのか分からなくなった。
命がなくなってしまったら旦那の前で2度と踊れまい。
それは嫌だいやだ。
命あれども2度と踊るなと言われると舞わないわたしに旦那は興味を持ち続けてくれるだろうか。
考えたくもない。
舞台の上に立ち回り演じ舞う。
それが生涯の願い。
それは今でも変わらない。
それでも、
わたしが何よりも望むのは。
旦那にわたしの演じる姿を見てもらう事。
わたしが妖艶に舞台で何者かになり得るその姿の視線の先にはあなたに居てほしい。
その頬に満足そうな笑みを浮かべ笑って褒めてほしい。
わたしは誰よりも旦那に見て欲しいんだ。
そのために視線の角度そのしぐさ指の先まで貴方の求める貴方を惹きつけられるその舞いを共に離れるその日まで舞い続ける。そう決めた。
誰よりも誰よりも貴方に。
その心にわたしのその姿を置いてて欲しいんだ。
🍁(誰よりも)