水瀬しろ

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20時34分

予備校を終え、駅まで歩く。
12月に入り、いよいよ手袋やマフラーが欠かせなくなってきた。息はもうとっくに白い。すれ違う人も皆、ポケットに手を突っ込んだり、ダウンに首をすくめたりしている。朝の天気予報によると、来週から雪が降るらしい。お父さんは雪に備えて早めにスタッドレスに変えていた。お母さんもお父さんに言われて変えていたが、本人は「まだ平気そうな感じ」だった。もしこんな時期にスリップ事故なんて起こされたら困るから、しっかりしてほしい。ここ数年は寒波が襲い、大雪が続いている。この冬も平年より積雪量が多くなると予想されているらしい。今年もまた、あの大雪を経験しないといけないのかと思うと、少し憂鬱になる。

そんなことを考えながら歩いていると、正面から小学生くらいの兄と妹と両親の家族が歩いてきた。おそらく外食帰りだろう。妹が母親の手をゆらゆらと揺らしながら楽しそうにしている。距離が縮まると、兄妹の会話が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、今日ね、流れ星が見えるんだって!学校で先生が言ってたの!」

「へぇー、そうなんだ。帰ったら一緒に見てみよっか。」

「2人とも、今日は寒いからまた明日にしなさい。」

兄妹の会話に割り込むように母親が言う。

「えぇー、今日がいーい。」

「まあまあ、いいじゃないか。お父さんが見守っててあげるから。」

父親が明るく言う。

「ちょっとあなた。この子たちが風邪ひいたらどうするのよ。」

「暖かくしてれば大丈夫さ。お父さんだって小さい頃、星が好きでよく見てたんだぞ。」

そのあとまでは聞き取れなかった。おそらく、ふたご座流星群の話だろう。中学までは星が好きで、よくプラネタリウムに連れて行ってもらったり、外で星を眺めたりしていた。しかし高校に入ってからは勉強や部活に追われて、気づいたら興味が薄れていた。会話が完全に途切れ、再び静かになる。気づけば風も出てきていた。立ち止まって手袋をはめ直し、マフラーを少し上げた。夜空を見上げてみたが、流れ星は流れなかった。遠ざけていたはずの夜空は鮮明で、星々が輝いている。それだけ空気が凍てついているということだ。吐いた息は白く、一瞬で夜空に消える。手袋をしっかりはめ直したはずなのに、手は少しずつ冷たくなってきている。気がつけば、昔のように夜空を眺め、星を追っていた。冷たくて遠くて綺麗で、そして優しい空は何も変わっていなかった。星を眺めるにはまだ寒い季節だけれど、暖かい季節になったら、その時はまた夜空を見上げる日々がやってくるのかもしれない。

そう思い、再び歩き出した。
月明かりは少し眩しく、夜空を優しく照らしていた。


「凍てつく夜空」

12/1/2025, 11:38:54 AM