私にとって、物語は――贈り物だ。
物語の主人公は、私にとってのヒーローだ。
時には喜び、時には悩み、苦しみ、挫折を味わう。
迷いながら――立ち止まりながら――
それでも、いつもヒーローは自分の道を見つけ、前を向いているのだ。
その姿に、またひとつ涙する。
所詮は、小説や音楽の中の主人公――
わかっていても、涙せずにはいられない。
それが、私にとっての物語だ。
そんな物語は、いつも温かくて、切なくて、
私の心のよりどころでいてくれる。
目を閉じて、
ホッとした気持ちとともに、背中を預けてみた。
たとえ世界が、私の敵に回ったとしても――
ヒーローは、いつもそばにいてくれる。
私が、私でいられる存在。
だから私は今日も、
そっと物語を手に取る。
「手のひらの贈り物」
子供の頃
模試返却の日。
志望校の判定結果と一緒に、自分の答案が返ってくる日だ。
第一志望合格可能性 E。
ただ「E」と書かれた個人成績表が返却された。
一般に、E判定の合格確率は20%以下だ。
込み上がってくる「それ」をぐっと堪え、自分の置かれている状況を理解した。
「それって、綺麗事でしょ。」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
第一志望に合格したい。
努力を重ねれば、いつかは――
それでも、諦める理由にはならなかった。
ここで逃げ出してしまったら、何かが終わってしまう気がしたからだ。
その時の悔しさを、今も忘れない。
全力でぶつかって、挫折したからこそ、今の僕がある。
長く、苦しい日々だった。
けれどその日々は、僕に確かな気力を与えてくれた。
だから僕は、今日も前を向ける。
僕だけの理由があれば、それで十分なのだから。
「心の片隅で」
1月7日 16時12分
大雪は――嫌いだ。
シャベルを手に、雪を掘る。
ガリッ、ガリッという音と共に雪をすくっては、
雪を庭へ放り投げる。
駐車場は雪だらけだ。
降りしきる雪の中、被るフードに雪が積もる。
雪は静かに、しんしんと降り続けている。
振り返ると、さっきまで雪かきをしていた場所は、もう白く染まっていた。
寒い――
冷え性のせいか、手袋をしていても手が冷たい。
気がつけば、さっきまで雪かきをしていたお隣さんもいなくなっている。
一度、家に戻ったようだ。
雪の日は皆、雪かきに見舞われる。
なので、よくシャベルがアスファルトに擦れる音が聞こえるのだが、
それも聞こえなくなった。
しんとした外に、大粒の雪は止むことを知らず、静かに降り続ける。
まさに滝のようだ。
掘っても掘っても終わらない。
ふぅっとため息をつき、白い吐息をひとり見送った。
「雪の静寂」
拝啓、夢の続きにいる君へ
今これを読んでいる君は、きっと夢に向かっていることでしょう。
今は楽しい?それとも、辛い?
私も、夢の途中で立ち止まったことがある。
夢への道のりは険しい。
いつ叶うかわからない。叶わないかもしれない。
だからといって、ここで立ち止まるわけにはいかない。
もしかしたら、その頑張りは誰にも気づいてもらえないかもしれない。
でも、私には見える。
はっきり見える。
君がこれまで描いてきた軌跡が。
真っ暗な世界をひとり、這いつくばっている。
一寸先は闇。
それでも手を伸ばして、必死に前へ進もうとしている。
それでも君は、今日も確かに前に進んでいる。
もし躓きそうになっても、少しでいい。
少しでいいから、夢を見つめてみて。
その夢は、きっと君に力をくれると思う。
いつか終わりは来る。
その時、君はどんな顔をしているだろう。
君は君らしく、前に進めばいい。
それだけで、私は君を応援したい。
いや、応援させてよ。
君の輝く夢が、いつまでもそのままでありますように。
水瀬しろ
「君が見た夢」
23時40分
歯磨きを終え、布団に入る前に机に向かう。
私にはルーティンがある。
それは毎晩、明日の目標を立てることだ。
どんなに小さくても構わない。
大好きな温かいミルクティーを飲むだとか
お気に入りの小説を読むだとか
好きなドラマを観るだとか
私にとっての明日の「お楽しみ」を書き出してみる。
日によって様々だ。
決してギラギラした眩しい太陽のような、大そうな目標ではない。
だけど私にとっては眩しい太陽なんかより、こっちの方がずっと心地良い。
小さな灯りをポツン、ポツン――
と照らしていく。
私にとって毎日の目標は、いわば道しるべのようなものだ。
小さくてふわふわしたその灯りは、
いつも私をそっと導いてくれる。
明日の自分が迷ってしまわないように。
たとえそれが小さな光であっても、その灯りさえあれば私は私らしくいられる。
だから今日もひとつ、またひとつ灯りを灯す。
明日へ繋げるために。
「明日への光」