→短編・引導
私の部屋で10年前のノートを見つけた。
なんとかページをめくってみる。
「死ぬな!」
たったそれだけ、書いてあった。
震える文字に、私は自分を思い出す。
苦労して保っていた思念が揺らぐ。その揺らぎは、全身から私という意識を溶かし始めた。
手の形を失った私から、ノートが滑り落ちる。部屋に積もった埃が舞った。
私は……誰だ?
自分を鼓舞するはずの言葉が、私の遺書になったあの日が、突如として私に襲いかかる。
夕焼け、どこからか漂う夕食の匂い、はしゃぐ子どもの声、通り過ぎる自動車、そして……動かない私。
すべてが私を包み、すべてがぐにゃりと歪む。すべてが、私の不在を知らしめる。
埃だらけの白い骨。割れた水がめと同じだ。形骸。魂は留まらない。
この世界に形を保てなかった私の最後の抵抗の跡が―、生を願ったはずの3文字が―、もはや私はこの世界に留まること許されぬ存在なのだと、私に本当の引導を渡した。
テーマ; 10年後の私から届いた手紙
2/15/2026, 3:10:38 PM