川柳えむ

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「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰だ?」
「それは女王様でございます」
 いつもの質問。いつもの解答。
 女王はこの答え以外は求めていない。この答え以外を発することは許されない。
 真実を映せない鏡はどんどん凍っていく。
 本当は、世界で一番美しい人は身近に別にいた。
 知っていて、それでも語ることはできなかった。

「あら、美しい鏡ね」
 ある日、その美しい人が、部屋に入って鏡を見つけた。
「少し曇っているわね」
 その美しい人は、自分の服の袖で鏡を磨いた。
 白く曇っていた鏡は輝きを取り戻し、凍っていた心は溶けていくように感じた。
「これでよし」
 美しい人が笑う。
 もう噓は吐けなかった。

「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰だ?」
「それは――」
 温かさを知る鏡は曇りなく、真実を映し出す。


『凍てつく鏡』

12/28/2025, 8:09:36 AM