曖昧よもぎ(あまいよもぎ)

Open App

12月に入り寒さも本格化した。
遠い町には既に雪が降っているらしい、太平洋側の地域であるこちらは雪とは縁が薄いので軽々しく「羨ましい」と口にできるが、あちら側の人間としてはたまったものではないのだろう。
交通を止める程度の雪であればこちらの人間だって「降るな」と願うものだし、僕にとっては雪は思い出の宝庫であるが。なんにせよ寒いのは嫌いである。
横浜駅周辺は実に賑わっていた。きらめく街並みときらめく人間。
それらは表面上だけのものである。決してきらめいてなどいないのだ。
東京などはやはり治安が悪いのだろうか、こんなのは序の口なのだろうか、千鳥足の男に密かに舌打ちしつつ素知らぬ顔で通り去る。一度だけ現実逃避に利用したギラついたネオンの街に思いを馳せ、掻き消す。僕は、この街で生まれ育ったのだ。まさか毎日イルミネーションに照らされている訳では無いが、確かにこの街に生まれ、育ち、通っている。
街とは生きているのか死んでいるのか判別つかない。活気のない街を「死んだ」と表現しているのを見たことはあるが、この街は果たしてどうだろう。だって行き交う人は生ける屍のようで、僕も例に漏れずただ呼吸だけしている街の傍観者だから。
ふと空を見上げた。今宵は満月らしかった。この夜の街と月は、果たしてどちらが美しいのだろうか。
少し考えて月のほうが美しいことにした。道徳の教科書には、きっとそう綴られている。

12/5/2025, 12:47:42 PM