あくも

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深夜にふと目が覚めた。違和感があって、寝ぼけた頭でぼんやり考える。そして気付く。
「……飛鳥ちゃん?」
隣で眠っていたはずの恋人に、そっと声をかけた。
「……ごめん。起こしちゃった?」
飛鳥ちゃんが枕に押しつけていた顔をこちらへ向ける。暗闇で両目が光る。やっぱり泣いていたみたいだった。
「ううん、たまたま目が覚めた。おいで」
ゆっくり頭を撫でて抱き寄せると、飛鳥ちゃんはぐすんと鼻をすすった。今度は僕の胸に顔を押しつけ、
「嫌な夢、見た」
と小さく言う。
「……嫌なこと思い出した」
「そっか。しばらく泣いたらいいよ」
「……うん」
飛鳥ちゃんは素直に泣いた。そしていつの間にか眠っていた。規則正しい寝息を聴きながら、僕の意識も薄れた。
次に目が覚めたときは、ちゃんと朝だった。けたたましいアラームに叩き起こされ、飛鳥ちゃんも僕も顔をしかめながら一旦丸くなる。朝に弱い二人なのだ。
「……智くん、手しびれてない?」
「大丈夫」
眠そうに瞬きをしながら、飛鳥ちゃんは僕を見た。ついでに欠伸をした。もしかしたら欠伸のついでに僕を見たのかもしれないけど、そういう村上春樹辺りがやりそうな言い換えは、置いておく。
「なんか、氷河が溶ける夢、見た」
「それは大変」
「ううん、いいことだよ。春になったから」
「あぁ、雪解けが来たんだ」
「智くんがぎゅっとしてくれるとき、いつも、その気持ちなんだよ」
「……雪解けの気持ち?」
「うん」
答えて、僕の胸に頬を寄せる。
「固まって、凍ってたものが、あったかくなって溶けていくの」
「……それは」
それはなんなのか、誤差のない言葉を見つけたくて、僕は考えた。
「……ありがたいことだなぁ」
「智くんが?」
「うん。嬉しい。僕が飛鳥ちゃんにできること、あったんだなって」
「いっぱいあるよぉ」
いつも言ってるじゃん、と笑う飛鳥ちゃん。朝の光と同じきらきらした粒子でできている、その笑い声が、僕は好きだ。
「嫌な夢は獏に食べてもらうか」
「雪解け水に流されて、どっか行っちゃった」
「それはよかった」
うんと答えて起き上がり、飛鳥ちゃんがカーテンを開ける。
「おはよう、智くん」
「うん。おはよう、飛鳥ちゃん」

12/16/2025, 1:57:54 PM