『小さな命』
小さな命が咲いていた。
だから、僕は笑って——その命を摘み取った。
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春が、少しずつ顔を出している。
山々には桜が咲きだし、山の一部がピンクに彩られ、山が春模様の服を着飾り始めたみたいだ。
小学生の僕は、おばあちゃんに言われて山に来ていた。
腰の悪いおばあちゃんの代わりに、山菜を取るためだ。
おばあちゃんは……山菜の中でも“ふきのとう”が一番好きで、ふきのとうを、食べないと、春が来ないと言う。
食べ物を食べないと、春が来ないとはどういうことだろう。僕は首を傾げながら、頷いた。きっと大人になったら、わかる。
朝に山に入った筈なのに、どうしてか、既にあたりは日が暮れようとしていた。
不思議だなぁ、と僕は思う。ちょっと寄り道して、鹿を追いかけてただけなのになぁ。
僕は頑張って、おばあちゃんのために、ふきのとうを探した。
そして、日が沈むか沈まないかのギリギリのところで、僕はふきのとうを、見つける事ができた。
ふきのとうは五つ、あったが、僕は三つだけ、採ろうと思った。
おばあちゃんが、そうしなさいと言っていたからだ。
『山のものは生きているんだから、山に住まない私達はソレを尊重してやらにゃあならん。私達はあくまでも山にお恵みを戴く立場なんだよ』
難しくて分からなかったが、このふきのとう達も山に生えているのだから、きっと僕のペットと同じように、懸命に生きているのだろう。
小さな命が咲いていた。
だから、僕は笑って——その命を摘み取った。
僕のペット、ニワトリのコッコも、いつかこうやって食べられる日が来るんだろうな。って僕はそう思った。
暗くなってしまった山を、僕は怪我しないように気をつけながら、駆け下りた。
麓付近になり、振り返った山の姿は、どこか厳格に見え、厳かに僕らの暮らしを見守っているように見えた。
僕は少し怖くなり、姿勢を正してペコリと一礼して、おばあちゃんの元へ、しっかりとふきのとうを握りして駆け出した。
今日の夜ご飯は、ハンバーグがいいなぁ。
それか、ニワトリの唐揚げ。
おわり
2/24/2026, 10:20:30 PM