放課後の図書室は、いつもより少しだけ暗かった。天雲が窓を塞ぎ、棚の背表紙たちが影に溶けている。
彼女は机の端に肘をつき、ページを捲る。文字が頭に入らない。隣にいる彼女の存在が、やけに近い。
言葉は多く要らなかった。沈黙は、決して重くない。むしろ息遣いが互いの距離を測る定規になっていた。
彼女は視線を落とし、私は雨の雨粒を数える。数えきれないと知りながら。
ふと、私は彼女をみた。目が合う。
その瞬間、世界は小さく畳まれた。図書室も、雨も、時間も、二人の間に。
約束ではなかった。宣言でもなかった。ただ、確かめるように触れるだけ。
唇が触れた時、私は思った。温度がある、と。
それは情熱の熱ではなく、手のひらで確かめる体温に似ていた。逃げ場を奪わない、しかし戻れない一歩。
すぐに離れた。ほんの一瞬。
それでも、図書室の空気は変わった。ページお城が少し眩しくなり、雨音が和らいだ気がした。
彼女は何も言わない。私も何も言わない。
キスは言葉を置き去りにした。だから、沈黙は破られない。
帰り際、私は本を閉じた。
物語は続きがある。でも、今はそれだけでいい。
あの一瞬が、しおりになったから。
2/5/2026, 6:54:05 AM