「ねぇ、これなら丈夫そうでいいんじゃない?」
私は、夫と車を買おうとしていた。
「そうだねぇ。でも、高くないか?色も、ピンク色はやめて欲しいかなぁ。」
「いいじゃん!可愛くて。」
「勘弁してくれよ。この車は何年も使うんだよ。40歳過ぎてもピンク色は、流石にきついよ。560万って、ローンを返済できるか不安だよ。」
夫は、私が一目見て気に入ったピンク色の自動車を見て、苦笑いした。
「大丈夫だって。私もガンガン稼ぐから。」
私はピンクの車に強い希望を抱いたが、どうやら夫はドン引きしながら、後退りをする。夫は、私のゴリ押しには弱いのだ。
「こっちの、黒い車ならどうかな?これならエコロジーだし、値段も390万と安いよ。広さも、快適だし。」
珍しく、夫が私に別の案を勧めてきた。
しかし、最終的には私が気に入ったピンク色の車を買うことで決定した。
「早速買ったんだし、どこかドライブに行く?」
新車が家に届くと、私はどこかに行きたくてたまらなかった。
「じゃあ、公園にでも行くか。」
「山とか行こう。」
「山は、あまり好きではないんだけどなぁ。」
「えぇ?行こうよ。きっと楽しいよ。」
こうして、私たちは山へドライブに行くことになった。
山へ入ったとき、私は高揚感に満ちていた。
「マジでめっちゃ綺麗!」
「本当に、綺麗だね。ピンク色だと、元気になりそうだ。英理奈のお陰だよ。ありがとう。」
私は夫に褒められたことが嬉しくて、夫に何かをしてあげたかった。
「あっ!猿がいる!猿だよ。」
私は夫の肩をボンボン叩いた。すると…。
「英理奈、あまり運転の邪魔をもらえるかな。」
夫が、真剣そうな顔で私に言った。しかし、私はその話を聞かずに車窓からの景色に釘付けになっていた。
「あっ!見て見て!鹿がいるよ!鹿が…!」
「英理奈、危ないっ!」
「えっ?」
私が夫の声を聞いたときには既に遅く、私たちの正面にはガードレールがあった。
「ちょっ!嘘でしょ!」
どうにもしようがなく、私たちはガードレールを突き破って山から転落してしまった。
「んん…。ん?あれ?」
次に私が目を覚ましたときには、私はゴツゴツした岩の上にいた。
慌てて辺りを見渡すと、50mぐらい先で深紅の血を流しながら倒れている夫がいた。
「龍助!」
私は、急いて夫に駆け寄った。夫の目は閉じていて、頭からは血が溢れていた。私が動かさない限り、ピクリとも動きはしない。胸には木の枝が刺さっていた。
「119番しなきゃ。スマホスマホ…。」
私は119番をしようとするものの、スマホがない。持っていたのは、変な石ころだけだった。スマホも、財布もみんな私のところから消えていた。夫もそうだった。
最終的に、このドライブが夫の最期となった。皮肉なことに、好きではない山に好きではない車で、しかも自分の誕生日に死んでしまったのだ。他でもない、私のせいで。私が、あのときに夫の話を聞いていればこういうことにはならなかったのだ。私は、この手で夫を殺めてしまったのだ。今も、ピンクの車を見るたびにそのトラウマが蘇る。そして、私は夫が他界して以来私は子どもを産み自分の意見をできるだけ言わずに、他人の意見に賛成ばかりしている。私の罪は、決して消えるものではないのだ。私が何をしようと、私が夫を殺めたという事実は変わらない。
それを噛み締めていくのが、私の反省なのだ。私は、夫に墓参りをする度にこう言っている。「待っててね。」と。
2/14/2026, 6:13:09 AM