遠い日のぬくもり
空は透きとおるように高く、どこまでも静かだった。
冷たい風が吹くたびに、あの冬の縁側を思い出す。
十一時。
使い古したマグカップから、コーヒーの湯気が静かに立ちのぼる。
苦みの中に、少しだけ甘い記憶が混ざるような気がした。
あの頃、私の足もとにはいつも、白い毛並みの「ユキ」が丸まっていた。
午後の光。
ユキの背中に触れると、お日様の匂いがした。
言葉なんてなくても、伝わる体温があった。
「ずっと一緒だよ」
そう信じて疑わなかった、無防備な季節。
今はもう、ユキはいない。
けれど、コーヒーを一口すするたび、
手のひらに残るかすかな熱が、遠い日のぬくもりを連れてくる。
会えなくても、消えないもの。
それは、私の心の奥で今も静かに、呼吸を続けている。
きみの背中の
日だまりのようなにおい
ときどき
思い出しては
コーヒーをひとくち 飲む
それは
さよならよりも
ずっと やさしい
記憶のたしかめかた
12/24/2025, 12:57:36 PM