あくも

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さみしい、と言うのは簡単だ。だけどたびたび返ってこなくなるメールに、次第に連絡を取らなくなっていったのは私のほうだった。

 *

『赤っぽい茶色が好きなの。煉瓦とか、枯葉の色』
『煉瓦の色ってけっこう幅があるし、いわんや枯葉をや』
ふたりで理由もなくはまっている古文の言い回しで返信すると、彼女からは『笑』とだけ返ってきた。だってそうじゃん、と返しかける途中で、次のメールの受信が知らされる。
『これ。こないだ載せてたじゃん?この色』
添えられたリンクを開くと、私のブログの記事だった。散歩中に撮った落ち葉の写真。うん、枯葉というか、紅葉した落ち葉。でもまぁ彼女が枯葉だと言うなら、君は今日から枯葉だ。
たしかに赤っぽい茶色で、よく晴れた昼下がりだったのと、アスファルトの灰色との対比もあって、かなり鮮やかに写っている。もっとも私は色よりも、右手を開いて小指だけすこし曲げたような、その「くるん」の形が愛らしくて撮った。
メールの本文にはもう少し続きがあった。
『わたしが勝手に自分のテーマカラーにしてる色とおんなじで、嬉しくてこっそり保存してた』
『それは私も嬉しい、ありがとう。元の写真送るよ』
『わー!ありがとう!待受にした!!』
返信と行動の素早さに笑う。そしてじんわりと噛みしめた喜びに予感した。
私はこのさき、秋になるたび、この十数分を思い出すんだろうな。

 *

それはまだSNSという概念もない、ガラケーがガラケーと呼ばれてもいない時代の話で、インターネットで知り合っただけの彼女がどうしているか、どこにいるかももう分からない。あの十数分を思い出さない秋もあった。
ねぇでもさ、まだ覚えてるよ。さみしいよ。
遥かに画質の良くなったスマホで、赤っぽい茶色の枯葉を撮る。指先はみんなぴんとしている。

2/20/2026, 4:47:00 AM