齢も30を過ぎると、たいていのことには落ち着いて対処できるようになる。
ほんの少し甘いものを放置しただけで沸いてしまったアリの大軍。夜、そろそろ寝ようかしらと電灯を落として気づく、小さな侵入者の羽音。寝静まってから始まる天井裏の運動会。
なぜ例に挙げるものが虫や害獣ばかりなのかというと、レナが今、東南アジアのとある発展途上国にいるからだ。
土煙の舞う、この南国に降り立ってもう、10年になる。
対処できるようになったのは虫や獣だけではない。
道を歩いてるだけで突き刺さる視線、無作法に群がりついてくる子どもたち、誰かと知り合うたびに「結婚はしてるのか」と聞かれるわずらわしさ、初対面で平気で言及される容姿のうんぬん—。
日本にいた時はとても窮屈に感じていた。早く脱出したいとさえ思っていたはずだ。もちろん今でも帰国した時には同じ窮屈さを感じる。日本について誇れるのは高度な衛生観念くらいだ。
だからと言って、海外もたいして変わりはない。窮屈に感じる箇所が移動しただけだ。結局、人間のいるところには人間の悪い所が渦巻いている。
それでも、たいていのことは対処できる。なんてったって私は、10年も異国の地で一人で生きてきたのだから。
いま目の前にいる、懐かしい癖っ毛の、それでいてあの頃とはまったく背丈の違う、この男を除いては。
2/25/2026, 5:31:42 PM