『だから、一人でいたい。』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
わたしは、暗いところが好きだ。
特に、1人でいることが。
だからわたしは、夜寝室から抜け出して、
三階へ行った。
三階の電気は消して、暗くした。
本当は二階へ行きたかったのだけど、
二階のわたしの部屋への道の間に、
ドアが開けっぱなしの若い祖父母の部屋があり、
電気がついていたため、帰るにも階段を
降るのは上より大変なことだったし、
三階へ来るしかなかった。
話し声が聞こえて、ドキドキした。
「猫ちゃん見てないな」
「外でたかなぁ?」
どうでもいい話だった。
とにかくはやく寝て欲しかった。
「上ちゃうか」
一気に心音が鳴った。
昼ご飯の時私は、猫ちゃんが三階へ行った話をした。そこに猫ちゃんが吐いてしまったと言う話。
無視しておけばよかったな、
今更思っても遅いけど。
階段を登る祖父の足音が聞こえた。
踊り場に頭が見えた。
–殴られるのかな…
怒鳴られるだろうな
どうしようか どうしようもないけど
持ってた携帯をズボンに挟んで長いTシャツで隠した。
サイレントモードにした。
携帯を持ってることは祖父母には内緒だから。
取り上げられるだけだから。
身構えた。
祖父が上がってきた。
怒鳴り声が聞こえた。
セリフは一部しか覚えていない
「なんでこんな真っ暗にしておるん!
暗いところに潜んでるのおかしいやろ!?
こんな暗いところに潜む人と一緒に住みたく
ない!
早よ行き」
無言で頷いた。涙さえ麻痺した。
震える手足で音を立てないように階段をかけ降りた。
一階。わたしが寝る部屋も一階。
だけど、
和室に入った。
暗いところに、と言う条件を満たさないように
机の電気をつけ、椅子に座った。
うつ伏せた。泣けてきた。
こんな危険を冒してまで
わたしは、ひとりでいたかったのだろうか。
祖父は一緒に住みたくない、と言っていた。
わたしは中学だから、まだ家に居られる、
だけかもしれない。
祖父母と一緒に住んでるのは珍しいのかもしれない。
両親が、わたしのことを考えて離れて、
母親と妹と一緒に、祖父母の広い家に居る。
わたしは、この家には居たくなかったけど、
子供だからどうにもできなかった。
祖父母は、わたしの母親に、文句を言う。
母親は、祖父母の前では暗い。
理由は知らない。
けど、話さないし、うんとは言うけど、
無表情で、怖い。
祖父母は度々、この家の広さを悪く言う。
それで、
この家売って、小さい家にすもっか?
あなたは、ママと一緒にアパートにでも住んだら?
ママもずーっと働いてさぁ
とか、冗談だよ、と言うけど、
頻繁に言うので信じられない。
会話だけでも耐えられない苦痛になる。
わたしだって好きでここに居るんじゃないのに。
ママだって、働いてるのに。
そして祖母は専業主婦だ。
働いたことなどない。
祖父は塾をしている。
無駄に論理的思考力がある。
それなのに、頭の悪いことを言う。
今のわたしは、祖父ごとき
簡単に論破できると思う。
殴られるからしないけど…
祖父の口癖は、「正解」「頭悪い」「普通に考えて」
あとは、
ママの悪口ばっかり。
祖父には口が裂けても言えないけど、
今の祖父は正解な訳がない。
聞いた話だけど、
祖父は昔、たくさんバイトして、それで
この広い家を買ったらしい。
塾を始めた理由は、もうすぐ地球が終わると噂されてたから、らしい。不正解だ。頭が悪い。普通に考えて、一生懸命貯めたお金をそんなことに使わない。
地球が終わる根拠がどこにあった。
まず、その時塾を始めて何ができる。
せめて意味のない募金に回す、とかの嫌な思考のバカの方がまだよかった。
というか地球が終わるってなんの話…
専業主婦の祖母は、働いたことないのに仕事の大変さを語る。こっちは本当に頭が悪い。
嫌な記憶力だけはあったようで、
過去のわたしの反抗と嫌な部分はわたしよりも覚えていた。
誕生日にもらったプレゼントなんて、
「見せて」というくせに、次の日には
「なにそれ、どこのんよ」と聞いてくる。
挫けそうになる。
祖父母は、他から見ると若くて羨ましいとか言われるが、あり得ない。
代わってあげるよと言われて、代われるとしたら、
断る。相手が可哀想だから。
今まで優しく育てられた相手なら余計に。
わたしはもう
いいから
遊びはやめさせられ、
「協力してよ」
と、わたしは何も頼まれてないのに、
手伝ってくれない、とか顔が怖い、とか、
理不尽に怒られる。
妹はそういうことがわからなくて、
何か言われることが多くて、
見たくないからわたしは、
ひとりになる。
祖父母から逃げたい。
妹から逃げたい。
母親から逃げたい。
大切な人が祖父母によって、
わたしの中の大切な物が祖父母に壊されて、
それでぐしゃぐしゃになって、
破片が刺さって、突き出て、
これ以上傷ついてほしくないから、
なんとか守って、
守りきれないときはにげる。
1人になることが一番だった。
暗いところがすき。
自分の顔も、家の様子も、
辛いことが何も見えないから。
1人でいるわたしを傷つけないで
だからわたしは1人でいる
誰かといると楽しいけれど、ずっと一緒は心が疲れる。
私の場合、1人の時間はとても大切。読書やドラマ、映画鑑賞、絵を描いたり、お菓子作りをしたり、好きなことができるから。誰にも邪魔されず、文句も言われない。ただただ好きなことに夢中になれる時間。ひたすら寝る時もあるし、少し遠くにお出かけしたり、過ごし方はいろいろあるけれど、どれも、私の心を満たすには必要な時間。そんな 時間があるから、また頑張れるのかも。きっと、自分の世界を自分の中に広げて、そこで楽しむことがまた一歩進む力になるのかな。だから私にとって、1人の時間は大切なんです。
夕暮れの病室に響く泣き声。
その様子に、俺はどんな表情をすればいいのか分からない。
『ごめんね…泣きたいのは君なのに…』
確かに泣きたい気持ちはある。
でもそれ以上に、俺は君に泣いてほしくなかった。
だがベッドに横たわり、呼吸器とたくさんの管に繋がれた
俺に出来ることなんて限られている。
そんな時、看護師が面会時間の終わりを知らせに来た。
君は椅子から立ち上がり、泣き腫らした目を誤魔化すように
明るい声色で“またね”と言った。
目と目は合わなかったが、俺は少ない力を振り絞って
肘から上を上げ、手を振った。
君の背中を完全に見送り、腕を下ろして天井を見上げた。
俺なんかの最期に、君に泣いてほしくないから。
だから、一人きりで、君の知らぬ間に。
「ま、たね…」
かすれ切ったその声は、俺の意識と共に消えていった。
だから、一人でいたい。
笑っている自分の笑顔が気持ち悪い。
好きな人に対してぶりっ子になる自分が気持ち悪い。
口が悪くて友達と一緒に愚痴ってる自分が嫌い。
両親には偉そうにして親孝行しない自分が嫌い。
どんな時の自分も嫌いだし、気持ち悪い。
ただ、一人でいる時の自分はそう思わない。
だから、楽。
名前、「気持ち悪い」とか「自己嫌悪」とかに変えようかな。そんな内容のことばっかしか書いてないもん笑。
ショックが大きすぎて
もう
何も考えられない。
大丈夫?
なんて
聞かないで。
大丈夫じゃ
ないんだから。
―――あぁ、
ダメ。
今まで一緒に
頑張ってきた仲間なの。
酷いこと言って
八つ当たりして
傷付けちゃ
ダメ。
お願い。
今のわたしは
ここにいることで
精一杯なの。
事故のことに
触れないで。
そっとしておいて。
#だから、一人でいたい。
ゆっくりと走りだし
その痣に向かって
跳ぶ夜もある
落ちていく間に
めくるめく物語が
指先を弄びすり抜けていく
繋ぎ止めるために
栞を挿むような
得体の知れない祈りに
降参するような
深い森の仲間に
夢がまたひとつ加わり
ソーサーの上に置かれた
気配が凍りつく
スマホを落として
自分の身を守れなかったんだから、と
逃れられない理由を
言葉にしてみて
この世に味方を
もう探すことができないなら
目覚めている理由が
行為の音になる
ぼくは森をふく風のように
考えることをしないで
あなたと混ざりあう時
生まれてこなかったことにもなるように
ずっと
ずっと
ここにいる
冷たい手を、ぶら下げている
#だから、一人でいたい。
優しさに慣れていないから。
愛に触れるとどうすればいいのかわからないから。
惨めな姿を見せたくないから。
きっと、泣いてしまうから。
だから、一人でいたい。
だから、1人でいたい。
部屋の隅で山積みになった漫画たちが、
チュートリアルさえ終わっていないゲームたちが、
後で見ようとマイリストに溜まったアニメたちが、
私の帰りを待っている。
さて今日は何からしてやろうと意気揚々に帰路を突き進むのだが、途中でぴかぴかと派手に輝く看板が目に入る。
まるで街頭に集まる虫のように、
財布を握りしめ、ふらふらと足を運び、また今日も一日が終わってしまった。
【3,お題:だから、1人でいたい。】
いつからだろう、最初はこんなんじゃなかったんだけどな
昼なのにカーテンが閉まった部屋は肌寒く薄暗い
途中で気持ち悪くなって食べるのをやめたカップ麺が布団の横に置いてある
僕はいつの間にこんな醜くなったんだ。
人との関わりが怖くなった。職場の人間関係が上手く行かなくなった。
人を信じられなくなった。どんな言葉にも裏があるように感じるようになった。
人に頼るのが下手になった。弱さを晒すのがこんなに怖いなんて知らなかった。
朝が来るのが怖い、でも夜の闇が恐ろしくて眠れない。
毎日のように送られてくる「もう大人なんだから」のメッセージ
なにも言えなくて既読だけつけてまた布団にもぐる。
うるさい
分かってるよ
分かってるけど
子供の頃夢見た世界はなんだったのか、あんなに楽しげに映った社会はフィルターにぼかされた偶像だった。
歳を重ねる程にどす黒いリアルに飲み込まれて、子供の時の夢ももう言えない。
もう僕に構わないでくれ、精一杯生きてんだ。
触れられたら壊れてしまう、次に叩かれたら耐えられない
こんなウジ虫みたいに生きてる僕だけど、死ぬのはごめんだ。だから僕は1人になることを選んだんだ。
「もう無理。別れて。」
そう、私は君に言った。
君は、ひどく不満そうだった。まさか私から別れを告げるとは思っていなかったみたいで、何か言いたそうに私を見つめた。
でも、君は「うん。」とだけ、私に言った。
ーああ、また期待した。
勝手に期待して、勝手に傷ついて、もう君に依存する生活は嫌だから。だから、一人でいたい。
…だけど、どこかで「嫌だ、別れたくない」って言ってほしかったのかも。
パラドクス2
得難いものを得てしまった幸運は
同時に毒となり蝕む
失う辛さから逃れる唯一の方法は
得ないことである
※だから、一人でいたい
ひとりになりたいということは
つまり多少なりとも
煩わしさなんかを感じているんでしょう
でもって結婚したり家族を増やしたり
その真意は
寂しさや其れが当たり前のような錯覚や
時には周りが…なんて焦りもあるでしょう
本当に本心で恋や愛など
正直分かると言える人はどのくらい居るのやら
わたしもかつては
そんな諸々が煩わしく
ひとりはなんて楽なんだ!
なんて思う一人でしたが
共に暮らし共に分かち合える
と思える貴重な人と出逢ったので
結婚しました
急いては事を仕損じる
<だから、一人でいたい>
時間なんて忘れて
どんなに嫌なことがあっても
くだらない話で笑って
あっという間に過ぎてく時間
あんなに楽しかったのに
独りになると押し寄せてくる
不安、孤独
楽しいって感じている時ほど
押し寄せてくる波が大きい
だから、1人でいたい
1人とは
誰もが1人なはず
何故
自分を捨てて
自分を隠し
自分を騙すの
人は沢山いる
1人が沢山いる
ちゃんとひとりひとりで居れるなら
人はそんなことをする必然はない
何をそんなに怯えているの
違うことは当たり前なのにね
誰かなんて何処にもいない
そこにいるのはあなただけである
ここにいるのがあなたであるかのようで
あなたではないように
あなたとはあなたが見ようとしている
あなたの紛い物、偽物に過ぎない
それでもあなたはそこにいる
あなたを表している
その偽物は
決して本物になることはない
だからこそ、1人でいたいのかもね
#40【だから、1人でいたい】
ほろほろと、泣いてしまう。
泣きたいと思っていないのに。
ぼとぼとと、泣いてしまう。
止め方を忘れたかのように。
弱さとか脆さとか
見せたところで何にもならない。
わかってる。そんなの、わかってる。
いちいち言われなくたって、わかってるんだよ。
だから、1人でいたい。
もう、1人でいたい。
1人でいさせて欲しい。
構わないで。
…
そんな風に、言えたらいいのに。
相手の気分を損ねちゃいけない。
言われたことをすぐに、
ちゃんとやらないと。
人と話すどころか、近づくだけで怖い。
急に話しかけると返事ができない。
だから、一人でいたい。
嫌われるくらいなら…
一人で痛い。
でも、皆といるのも痛い。
なら、一人のほうがいいかな…?
でも。
もしこんな僕でも全部受け止めてくれる人が
いたなら…。
『緊急ぼっち宣言』
夜中の蝉の鳴き声は サービス残業みたいで好きになれない 私といえば 押入れ近く ひとりぼっちで布になる 誰も話しかけないでということだ 布になり
私はほわほわ現在進行系 緊急事態だから仕方ない
顔や胸や髪が緊急事態だ 私なりのクールダウンだ
「だから、一人で『居たい』、『痛い』、『遺体』。まぁ普通に考えりゃ『居たい』だろうな」
ひらがな表記は「漢字変換」で色々アレンジできるから便利よな。某所在住物書きはスマホで「いたい」の変換候補を見ながら、「居たい」が良いか「痛い」が物語を組みやすいか、思考していた。
「一人で居たいのは、ぼっち万歳ストーリーよな。痛いハナシは痛覚的にタンスに指ぶつけたとか、痛車痛スマホとか?一人して痛い思い、痛いこと……」
一人して痛いことをしているハナシとか?物書きは言いかけ、身に覚えがあり、一人で勝手に悶絶する。
「昔、ガキの頃、どちゃくそにメアリー・スーな二次創作ばっか書いてた、な……」
よって、物書きは一人で、痛い古傷にうめいている。
――――――
職場の先輩が、ちょっと体調悪そうな顔で出勤して、いつもは飲まないのに、眠気解消系ドリンク1本デスクに置いて。それで仕事してた。
「最近、どうにも眠れなくてな」
先輩は言った。
「まったく困ったものだ。夜は無理矢理寝て時々目が覚めて、朝は無理矢理起きて睡眠時間が足りない」
大丈夫。捌くべき仕事はしっかり捌くさ。
あくびを噛み殺しながら言う先輩の目は、言われてみればなんとなく、うっすら、本当にうっすら、クマができてるように見えなくもなかった。
「時々起きるって、心配事か何か?」
「どうだろうな。心配事といえば、心配事か。それのせいで夢見が酷く悪い」
「いつ頃から?もしかして、先々週から?」
「さぁ?先々週といえば先々週かもしれないし、それより後といえば後かもしれない」
「例の初恋さん?」
「お前は気にしなくてもいい。私自身の問題だ」
「つらいの?夢に出てきて怖いの?」
「黙秘。本当に、気にするな」
パチパチパチ。眠気打破ドリンクに口をつけて、ノートのキーボードに指を滑らせる先輩を見て、私はなんとなく理由が分かった。
先々週、ちょっとメタいハナシをすると、18日か19日あたりのハナシだ。
先輩には、昔々先輩の心をズッタズタのボロッボロに壊した、初恋さん兼失恋さんがいて、先輩はそのひとから8年くらいずっと逃げ続けてて、
先々週、道でそのひととバッタリ会った。
私もそこに居たから分かる。先輩はすごく怯えてて、怖がってて、ともかくその場からすぐ離れようと、必死に走って逃げてた。加元さんとか言った筈だ。
私は直感で察した。そのひとだ。きっとそのひとが、先輩の夢に出てくるんだ。
「先輩、私、何かできることある?」
「気にするなと言っただろう。いちいち私のことなど気にかけていては、体がもたないぞ」
パチパチパチ、カタタタタ、パチパチパチ。
先輩は自称人間嫌いの捻くれ者だけど、ぶっちゃけ、根っこは誠実で優しくて、寂しがり屋で、人に頼るのがバチクソ不得意だ。
他人の困り事には何度も手を差し出すのに、そのくせ自分の困り事は自分の中にしまい込む。
先輩は、だから、一人でいたいのを耐えてる。一人ぼっちで痛いのに対処してる。
「……ケチ」
「なんだって?」
「なんでもないでーす」
長いこと一所に仕事してきたんだから、長いこと私の痛いのを助け続けてくれたんだから、
こういう時くらい、私にも、先輩の痛いところ触らせてくれたって良いじゃん。ケチ。
とゴネたところで、どうせ先輩はケチだ。
私はゴネるかわりに口を尖らせて、アゴを上げて、どちゃくそにスネてみせた。
だから、一人でいたい。
森の奥深くに苔だらけの古い大きな館がポツンと建っていた。
そこに一人の少女が住んでいる。腰まで伸びた長い白銀の髪は美しく、宝石のようにキラキラとした紅い瞳は、ただ天井を見つめていた。
「……あと何年かしら」
ベッドの上に横になりながらそう呟く。
静かな部屋。聞こえてくるの音は、外にいる鳥たちの声のみ。
起き上がり、ベッドから降りると窓へ向かった。
窓を開けて風を入れる。そよそよと気持ちのいい風が入ってきた。
少女は目を瞑り、外の音を聞く。
「おはよー」
森の中からやってきた少年。右手には茶色の紙袋を持っていた。
少女は目を開いて、少年を見つけると嫌そうな表情をする。
「……また今日も来た、しつこい……」
「ねぇー、美味しいりんご買ってきたんだ、一緒に食べよう」
「食べない、帰って」
そう言うとパタリと窓を閉めた少女。そして、窓から離れて、ベッドへ。
「えぇー、せっかく買ってきたのに、食べようー、ねぇーねぇー」
窓の外から聞こえてくる少年の馬鹿でかい声。
ずっと、「ねぇーねぇー」と言い続けていた。
少女は枕を頭から被って聞こえないフリ。しかし、まだ聞こえてくる。
「ベアトリスさーん、たーべーよー」
カッと目を見開いて、ベッドから飛び降り、窓へ向かって走る。
そして、バンっと音を立てて、窓を開く少女。
「うるさいっ、名前を呼ばないで」
「あ、出てきた。ベアトリスさん、たべよー」
少女――ベアトリスの顔が再び見れると嬉しそうな表情をする少年。
紙袋からりんごを取り出すと、ベアトリスのいる2階の窓へ放り投げた。
ヒョイっとりんごを避けるベアトリス。
「えっ、ひどっ、受け取ってよ」
「いらないって言ったはずよ」
「えぇー、美味しいのに」
紙袋からもう一つりんごを取り出すと、食べ始めた少年。
しゃりしゃりと音を立てて、美味しそうに食べる。
すると、森の中からうさぎやリス、鹿にキツネたちが寄ってきた。
少年の周りに集まると物欲しそうにりんごを見つめる。
「わぁーい、モテモテだぁー、見て見て、ベアトリスさーん」
太陽のような眩しい笑顔で、ベアトリスに手を振る。
ベアトリスはその光景が羨ましかった。ギリっと奥歯を噛み、舌打ちをする。
「……私にはできないこと」
ボソっと呟き、さっき避けたりんごを拾った。
蜜の甘い匂いが香る、真っ赤なりんご。次の瞬間、見る見るうちに萎れていく。
最終的に水分が無くなり、干からびた形に。
寂しそうに笑うと干からびたりんごを握りしめた。
「ベアトリスさーん、外に出てきてお散歩しようよー」
窓からまた顔を出したベアトリスは、首を横に振った。
「何度も言うけど、外には出ない、絶対に」
「んじゃぁ、俺がそっちに行く」
「来ないで」
「えぇー、いつもそう言うー。俺は、ベアトリスさんと近くで話したいのにー」
頬を片方膨らませ、不服そうにそう言う少年。
ベアトリスは、拳を作ると窓の枠を強く殴った。
「本気でそれを言っている?」
「えっ、言っているよ?なんで?」
「あなた、私のこと知らないの?」
「知っているよ、ベアトリスさんでしょ?」
にこっと笑う少年に干からびたりんごを投げつけた。
飛んできたモノに驚いて逃げていく動物たちに対し、少年は動じなかった。
ヒョイっと干からびたりんごを拾うとじーっと見つめる。
「あれ、りんご、嫌いだった?」
「……あなた、頭おかしいの?」
「よーし、明日も違うモノを持ってくるよ」
ベアトリスの言葉は無視して、森の中へ戻ろうとした少年だが――
「ベアトリスさん、ちなみに俺、あなたって名前じゃないから。ロットって名前だから、名前忘れないでね」
そう言って、森の中へ帰って行った。
静かになったその場。ベアトリスは深いため息を吐くと窓を閉めた。
そして、ずるずると床に座り込む。
「……なんなのアイツ」
――――
ベアトリスの館に毎日に通うロット。
日々、違うモノを持ってくる。食べ物、お花、本、そして――
「……なにこれ」
窓の外から飛んできたモノは茶色の小さな箱。
中を開けると音楽が流れ出す。綺麗な音が部屋に広がる。
冷えていた心が少し、温かくなったような気がしたベアトリス。
「あっ、気に入ってくれた、オルゴール?」
外から聞こえるロットの声に、ハッとした表情をして、蓋を閉めた。
「……別に」
「気に入ったんだ、よかったぁー‼︎んじゃぁ、館の中に入れてください」
「それはない」
スッパリそう言い切る。肩を落としたロットはトボトボと森の中へ帰って行った。
その姿を見て、表情が緩んだベアトリス。今まで、緩むことがなかった。
毎日、ロットが来るのが楽しみになっていった。雨の日も風の日も、雪の日も絶対にやってきて、何かをプレゼントしてくれる。
そして、森の向こうにある街の話もしてくれた。窓越しで、その話にいつの間にか耳を傾けるようになったベアトリス。
ベアトリスの白黒だった世界が、色づき始めたと思った矢先――
「……来ない」
ある日、ロットが来なかった。何時間待っても、何日待っても。
雨が降っても、風が吹いても、来なかった。
ベアトリスは茶色の小さな箱を開けて、オルゴールを流す。
音が心の不安を癒してくれると思ったが、癒えなかった。
すると、森から騒がしい音が聞こえてくる。ベアトリスは窓から顔を出すと、そこには大勢の人間が手に武器を持って立っていた。
そして、一人ボロボロになった少年が前へ突き飛ばされ、地面へ倒れる。
「……ロット⁈」
窓から身を乗り出すベアトリス。ここからでは、ロットが生きているかどうか確認できない。しかし、外に出られないベアトリス。窓枠をぎゅっと握りしめる。
「生命を吸う怪物、そこから出てこい。お前の討伐命令が出たんだ。……出てこないなら、コイツがどうなってもいいのか?」
大柄の男がロッドの頭を踏む。微かにぴくりと動いたロット。
だが、起き上がる気配がない。
ベアトリスは桜色の唇を噛み締める。怒りを露わにした。
そして、2階から飛び降る。久しぶりに外に出た、ベアトリス。
「討伐って、私のことわかっているの?」
ベアトリスの周りの地面に生えていた草が見る見る萎れ、枯れていく。
「勝てると思っているの、この怪物に?」
一歩、また一歩進むと生命を吸い取っていく。
周りの空気が冷えていった。
一人の青年が、ベアトリスに発砲した。胸に弾を受け、血が出たベアトリスだが、倒れることなく歩き続ける。撃たれた場所はもう傷が癒えていた。
「そう簡単に死なないわよ?死ぬことなんてない、命を吸い続ける限り」
ごくりと何人か唾を飲み込んだ。ベアトリスの紅い瞳に睨まれ、人間たちは足が震え出した。
「誰に頼まれたか知らないけど、やめておいた方がいいわ。去りなさい、人間なんかに勝ち目ないわ」
風が強く吹くと同時に大勢の人間たちは、逃げるように去って行った。
ぽつりと横たわったままのロット。普通ならすぐに駆け寄り、抱きしめたいが、これ以上は近づくことができないベアトリス。
近づけば、ロットの生命を完全に吸い取ってしまうから。
何もできず、その場に突っ立ったままのベアトリス。
「……ごめん、ね。しば、らく、一人に、して」
途切れ途切れの言葉。ベアトリスは静かに聞く。
「……わるい、やつら、に、つかまってさ、このザマ、だよ」
へへっと笑うロット。命の灯火が少しずつ小さくなっていく。
「おねがい、が、あるんだ、ベアトリスさん」
ベアトリスは耳を塞ぎたかった。その言葉を聞きたくないから。
「俺の、いのち、あげる。そしたら、いつまでも、いっしょ、にいられる」
最後の力を振り絞り、ベアトリスに手を伸ばすロット。
その顔は太陽のように眩しい笑顔だった。
ベアトリスは駆け出し、その手をしっかりと握った。
「ありがとう」
幸せそうな顔。すぅーっと綺麗な光がベアトリスに吸収されていく。
ベアトリスはボロボロと大粒の涙をこぼした。
「ばかっ、また寿命、増えたじゃない……」
枯れた手を握りしめて、自分の額にあてる。
「だから、一人でいたかったのに……一人がよかったのに。あなたのせいで……また生きないといけなくなったじゃない」
森中にその声が響き渡る。動物たちが、その様子を遠くから見つめていた。
2階のベアトリスの部屋からオルゴールの音が聞こえてきた――
お題『だから、一人でいたい。』
主様を怒らせてしまった。
昨日までお風呂のお手伝いをしていて、そのつもりで今夜も……と思っていたのが大間違いだったのだ。
「フェネスの馬鹿! 私だってそろそろひとりで入れるもん!!」
俺にはデリカシーというか配慮というか、女性の心の機微を察知する能力が欠如しているのかもしれない。
反省点は日記に書いて二度としないようにしないと。
『もしかしたらこれを機に担当を代えられるかもしれない。そしてもう二度と担当に戻してもらえないかもしれない……』
そう記していたら眼鏡の視界が歪んできた。
「はぁ……俺ってなんてダメな奴なんだ……」
ペンを置き、頭を抱えていると書庫に誰かがやって来た気配がした。
「フェネスさん」
衣装係のフルーレだった。
「あの、相談というか……主様のお召し物のことなんですけど」
フルーレが俺に服の話をしてくるなんて珍しい。しかし頼られている気がして、少しだけ気持ちが上向いた。
「主様のお召し物がどうしたの? フルーレ」
「最近胸周りがキツそうなので新しい服を作るために採寸を……と思ってさっきお部屋に伺ったら、馬鹿と言われて締め出されて……俺、何か間違ってたんでしょうか?」
なんだ、フルーレもだったのか。
「俺もだったんだ」
「えっ、フェネスさんも?」
ふたりで頭を悩ませていたけれど、ふとある言葉を思い出した。
「思春期……かもしれない」
「あぁ……なるほど、そうかもしれませんね……」
主様に思春期が訪れたのであれば納得がいく。しかし、そうとなればどう接したものか?
「分からないので主様に直接窺いましょう」
「え! フルーレ!?」
鼻息も荒く意気揚々と主様の部屋に向かおうとするフルーレの後を慌てて追いかけた。
そして。
「だから、ひとりでいたいって言ってるでしょ!? フルーレとフェネスの馬鹿ぁ!!」
分かってはいたけれど、ショックもそれなりだ。
主様の思春期……これは、手こずりそうだなぁ……。