『花束』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
《花束》
拍手喝采の中、私はステージから降りた。
演劇の幕が降りたのだ、もうそこに私の居場所は無い。
「お疲れ様でした〜」
共演者さんやスタッフさんに声を掛けながら私は、控え室まで戻る。
漸く手にした舞台だったのだ、緊張するのも仕方がないと思う。
「これ、ご友人だと名乗る方から頂いた花束です。あなたに渡して欲しい、と」
スタッフさんから渡されたのは、薔薇の花束だった。
「あら情熱的……誰からかしら」
何気なく、添えられていたカードを見ると、
『親友からの気持ちよ』
とだけ書かれていて、恐らくこの送り主であろう彼女の素っ気なさに笑ってしまった。
裏返してみると、まだ文章があった。
『これが、あんたの演技に対する』
文脈的に裏から見てしまったのかも知れない。
改めて文字を見ると、書き殴ったような字だと思う。
ねえ、花束って何が綺麗なの?
だってせっかく綺麗に咲いてる花を手折って、集めたのものなんでしょう。
それの何が綺麗なのか、わからない。
そのまま野に咲いている方が何倍も心が揺さぶられて、美しいって感動できるわよ。
花束なんて、窮屈な布に綺麗に押し込められただけ。そこに花の個性も何も無いわ。
その本来の才能を殺してるようなものでしょ。
そんないつかの会話を、ふと思い出した。
つまりこれは、そのメッセージなのか。
「……私だって、そのままでいたかったわよ」
夢の為に捨てた想いを、夢の為に捨てた『私』を、彼女は大切にしてくれているんだろう。
だから彼女は私にとって、最高の親友なんだ。
押し入れの戸を開けると、そこには花束が隠されるように置いてあった。
おそらく明日が結婚記念日なので、夫が私に渡すための花束だと思われる。
そのプレゼントを見つけてしまった私の今の気持ちを述べよ(配点10)
答え:もっとうまく隠せよ
一秒にも満たない現実逃避から、通常モードへ復帰。
復帰して初めにやることは、ため息を出すこと。
こういうのって当日に買うものでは?
悶々としながら、押し入れを閉める。
前からあの人はうかつだと思っていたが、まさかここまでとは……
あの人はサプライズ好きで、なにかと私を驚かせようとする。
が、詰めが甘く、たいていの場合それを実行する前に目論見が露呈する。
今回もサプライズで花束をプレゼントするつもりだったのだろうが、ご覧の有様だ。
花束をくれること自体は嬉しいんだけどね。
さて知らないふりをして花束をもらうべきか……
それとも指摘するべきか……
それが問題だ。
いや待てよ。
第三の選択肢を思いついた。
私がサプライズをすればいい。
なぜ今まで思いつかなかったのか。
善は急げ。
今すぐ花束を買いに行こう。
今までもらってばかりだったが、私からのプレゼントもいいだろう。
きっと驚くぞ。
しかしそうなるとバレないように隠す必要があるな。
うーん、隠す場所隠す場所。
まあ無難に押し入れでいいだろう。
今から夫のリアクションが楽しみだ。
🌹 🌹 🌹 🌹 🌹
押し入れの戸を開けると、そこには花束が隠されるように置いてあった。
おそらく今日が結婚記念日なので、妻が僕に渡すための花束だと思われる。
そのプレゼントを見つけてしまった僕の今の気持ちを述べよ(配点10)
たくさんの花束を抱え
向かった先に
君がいるかと思うと
胸が高鳴る
あぁ、どうやって渡そう
喜んでくれるかな
柄にもない事するなんて…
って君は笑うだろうか
こんな瞬間さえも 愛おしい
#花束
〘花束〙
花束を持って、僕はその墓の前に立っている。それは随分と昔に亡くなった友人のためだった。彼は普段、神経が太すぎるくらいでそれ故に撲や彼女は胃を痛めたものだったが、………こうして居なくなってしまうとそれはそれで寂しいと思ってしまった。一呼吸おくと、僕は"妻"と友人の墓へ花を手向け、それから手を合わせた。
僕らはいわゆる三角関係というやつだった。僕と彼が彼女を好きで、彼女は僕らの両方が好きで、どうしようもなかった。だから、じゃんけんで分けることに決めた。勝った方が生前に負けた方が死後に彼女を娶る。勝ったのは、僕だった。僕は彼女の生涯を共にした。予想外だったのは彼が若くして逝ってしまったことぐらいだろう。僕らはずっと幸せだった。
先日、妻が天寿を全うした。老衰だった。
子や孫らは悲しんでいて、勿論それが一般的なのであるが僕は同時に安心したのだ。彼はあちらで僕らをずっと待っている。だけれど、僕らには死の兆候が見られなかった。僕らだけが幸せのまま。彼に申し訳がたたない気がしていた。けれど、ようやく恩が返せるのだ。喜びで涙が溢れた。彼女は最期に「お祝いしてね」と静かに息を引き取った。春のことだった。僕はそれを最後の仕事だとばかり老いた身体を酷使した。"世界で一番の結婚式を"それだけだった。(ウェディングドレス風の)エンディングドレスに二人の墓の手配、家族に理解を示してもらうのに一番苦労した。そして、今日が彼らの結婚式だ。参列者は僕1人。
他には誰もいない。けれど、幸せだった。さあ、彼らが呼んでいる。
「今、いくよ。」
テーマ『花束』
誰かに花束を贈ったことは、ない
花瓶に入れられた花が枯れ、茶色くしなびて乾燥し
パラパラ砕け散るのを見て以来
どんなにきれいな花も、すぐにそうなってしまうのだと知って
摘まれた花よりも、野に咲く花のほうが
素直にきれいだなと思えるようになった
野に咲く植物は、枯れて朽ちても
土の養分になって、次の命の糧となれる
枯れたからと、ゴミ箱に捨てられるのを見るのは
嫌だから
きっと私は、生きた花を贈らないだろう
花束
『花言葉』
私の名前は未衣、花の女子高生。
京先生「今日は母の日だな、みんな母親にいつものお礼になんかしてあげろよ」
授業が早めに終わり休み時間まであと3分となり、担任の京先生が言った。
藤介(とうすけ)「でも何してあげたらいいんですか」
前の席の藤介は机に突っ伏して気怠そうに言った。
京先生「お花をあげたらいいんじゃないか、カーネーションとか」
藤介「カーネーションね〜」
また気怠そうに言った。
京先生「あっでも気をつけろよ、カーネーションは赤いヤツをあげるんだぞ」
未衣(みい)「なんでなんですか?」
疑問に思ったので私は質問した。
京先生「カーネーションは色によって花言葉が違うんだ、赤が母への愛、白は尊敬とかな」
未衣「へぇ〜、そりゃ知らなんだだ」
京先生「僕は大学で植物サークルに入ってて花言葉とかにすごく詳しいんだ」
未衣「へぇ~、そらも知らなんだだ」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴って休み時間となった。
夜「ねっ未衣、黄色いカーネーションの花言葉知ってる?」
友達の夜が後ろの席から声をかけてきた。
未衣「えっ知らない、何?」
夜「『感謝』らしいよ、しかも12本の束であげたほうがいいらしいよ」
未衣「へぇ~、そりゃ知らなんだだ」
夜「先生にあげたら?」
未衣「それいい!明日あげるわ!いつも京先生には助けてもらってるし」
次の日
未衣「先生!いつもありがとうございます!」
そう言って朝早くから京先生に12本の束の黄色いカーネーションを渡した。
京先生「おぉー、ありがとな、えーと、なんか先生に不満があるかぁ」
未衣「えっなんでですか?」
京先生「カーネーションは12本で『永遠』って意味で黄色いカーネーションの花言葉はな、『軽蔑』なんだよな、だから永遠に軽蔑するって
ことなんだ」
後ろから夜の笑い声が聞こえてきた。
未衣「夜〜!嘘ついたなー!!」
夜「ごめんごめん笑」
【花束】
小銭片手に花屋に経つ少年。
勇気をだして、店内に入り1輪の赤いカーネーションを手に取った。リボンで飾り付けられ、店を飛び出すと、誰にも見られたくない思いで走り出し家に帰る。
夜、母親が帰宅する。仕事から帰って食事の支度をする母に、少年は恥ずかしそうにしながらカーネーションを差し出した。
-……。
目を覚ました俺は自分が寝ていたと気づくまでに少し時間がかかった。ボーッと、先程まで突っ伏していた机を眺める。
懐かしい、子供の頃の記憶を夢みていた。本当はあの時、たくさんの花をプレゼントしたかった。子供の小遣いで買える精一杯の感謝の気持ち。
眠気を覚ますため、俺はふらっと街に出る。
その時、偶然通り掛かった花屋の前で足を止めた。さっきの夢の影響か、俺は店の中に入る。
店を回ると、小ぶりの可愛いブーケを見つけた。それを手に取ると、会計を済ませて店を出ていた。
購入するつもりはなかったが、このブーケを見つけた瞬間何故か夢のことが脳裏に過ぎったのだ。
こんな何でもない日に急に実家に帰って、母さんにプレゼントしたら変に思われるだろうか。
そう思いながら、今は少し離れて暮らす母親の家に足を向けるのだった。
過去、花束を貰ったのは二回。
幼稚園の卒園式のとき、先生から「小学校でも頑張ってね」とチューリップを貰ったのが一回目。
次いで中学校の卒業式前に、部活の後輩たちから手帳型の書き寄せと共にガーベラ&カーネーションを貰ったのが二回目。
そのどちらも、とても嬉しかったことを鮮明に覚えている。
そして、じきに三回目の花束を私は貰うのだろう。
新たな門出を祝われて、次のステップへと足を踏み出す私たちに向けた応援の花束を、ひとつ、教師手ずから貰うのだろう。
それを踏まえて、卒業する私も心温まる花束を渡したいと思っている。
精一杯の感謝を込めて、親身に相談に乗ってくれた先生方に向けた、スイートピーの鮮やかな花束を。
自信を持って、押し付けてやろう。
心配性の先生に、もうそれは不要だと、胸を張って言い放ってやるのだ。
「お世話になりました!」
きっと、笑って見送ってくれるだろうから。
花束
「やぁ」
『やぁ?』
「久しぶり」
『久しぶりだねぇ』
「今回行ってきた島にはね、花束が落ちてたんだ」
『ふぅん?』
「たくさんたくさん落ちてたの」
『どのくらいなのぉ?』
「道が見えなくなるところまで。ずぅっと」
『へぇ』
「オオクチさん。道って知ってる?」
『知ってるけど、知らないよぉ』
「そっか」
『そうだよぉ』
「何で落ちてるんだろうって気になったからね、ぼくは花束を追っかけたの」
『何でか分かったぁ?』
「ちゃんと分かったよ。せっかちなオオクチさん」
『ふへへぇ』
「花束の先には巨人さんが居てね、どこかのお家の賢いお兄ちゃんみたいに、花束を置いて行ってたの」
『ふぅん?』
「それでね、ぼく聞いたんだ。何で花束を置いてるのって」
『それでぇ?』
「自分は体がとても大きくて、知らないうちにたくさんたくさん小さな生き物を殺しちゃうからだって、巨人さんは言ったんだ」
『それで花束ぁ?』
「うん。それで殺しちゃった生き物たちを弔うんだって、許してもらうんだって、言ってたよ」
『そっかぁ』
「巨人さんの身体にはたくさんたくさんお花が咲いててね、それを引っこ抜いて、巨人さんは花束を作ってたんだ」
『とってもファンシーな巨人だねぇ』
「うん。すごく綺麗な花たちだったよ。お手伝いをしてくれてるんだって、巨人さんは言ってたよ」
『花は知らないけど知ってるよぉ』
「先越さないで!」
『ごめんねぇ』
「ぼくはしばらく巨人さんについて行ってたの」
『何で?』
「何となく」
『そっかぁ。そのままずっと旅しなかったのぉ』
「オオクチさん拗ねてる?気持ち悪いね」
『んひひっ』
「旅はね、ずっとはできなかったの」
『どうしてぇ?』
「巨人さんが崩れちゃったから」
『あららぁ』
「崩れた巨人さんは動かなくなってね、お花たちは喜んでたんだ」
『へぇ』
「私たちの仲間の命を何千年もの間奪い続けた悪しき巨人を、やっとやっとやっつけた!って言ってたよ」
『悲願達成おめでとぉ?』
「ホントにね!」
「今回はここまでね。じゃあね」
『じゃあねぇ』
《キャスト》
・ベニクラゲさん
ふわふわの生き物。オオクチボヤさんが大嫌い。ちょっとだけ賢くなった。
・オオクチボヤさん
ぶよぶよの生き物。ベニクラゲさんが大好き。でも憎い。変わらない。
花束
自分にされて嫌なことは他人にもするな。よく言われた。
花束はいらない。貰っても邪魔になるだけだから。
だからあげなかったんだけどな。どこから違ってただろう。
今日も帰り道で花束を買う。
私に心配させまいと
常に辛そうな表情で無理に笑顔を作る君。
そんな君が花束を貰った時だけは
本当に幸せそうな顔をして笑うから。
私は君に会いに行く時は必ず花束を買うようになった。
私は後何回君に花束を渡せるだろうか。
後何回君と話せるだろうか。
後何回君の笑顔が見れるのだろうか。
どうか一日でも一秒でも多く君と過ごせますように。
ー花束ー
毎日、残業、残業。
「あー疲れた、やっと終わった。お腹が空いたぁー。」
「俺が手伝ってやったから早く終わったな、感謝しろよ。」
この人は私の先輩だ。意地悪な言い方をするけど、多分根はいい人なのだと思う。
私が仕事で失敗しても、フォローしてくれたり、一緒に謝罪しに回ってくれたり、まぁ出来の悪い後輩の面倒はいつも面倒くさそうにしながらもみてくれる。
「ちょっと待っとけ。」
「あの…コーヒーは飲み過ぎて吐きそうなので、米を、おにぎりをお願いします。」
「しょうがないな。太るぞ。」
「太ってもいいんです…。」
先輩にこんな事お願いしたらだめだよなって思いながらも、甘えてしまう。いい人だからだ。
別に、好きな訳じゃない、気になるわけじゃない。
いつも見えない所で頑張っている、面倒な事でも普通に引き受けて淡々とこなすこの人が、好きな訳じゃないんだけど…
「おにぎり、ありがとうございます。」
「よく食うな、お茶も飲め。」
「食べることが好きなんです。あんまりこっちを見ないでください。」
先輩はただ笑って見ていた、私の食べる様を。
それから6ヶ月が経ち、先輩は退職する事となった。
私が彼から退職の事をきいたのは3ヶ月前だった。
驚いたけど、引き留めはしなかった。頑張ってもらいたかったし、思い通りに生きて欲しいから。
先輩の挨拶が終わった。
「お世話になりました。ありがとうございました。
」
「こちらこそ、まあこれからも頑張ってね。」
部署内で準備した花束を、部長が手渡した。
大きな花束のせいで、先輩の表情がよく見えなかった。
私は泣きそうになったけど、我慢した。さみしくなるけど、前を向いて。
今度は私が後輩たちを育てていかないと。
「頑張れよ、期待してる。じゃあな。あんまり食いすぎるなよ。」
私の肩を叩いた。
よくわからないけど、涙が止まらなかった。
もう、私に夜食を買ってきてくれる人はいないんだ。
小さい頃、
よく学校の先生とかが
転任、離任発表の時とか
花束を渡されていた。
結構大きいやつだから
持って帰るの大変そうとか
子供ながらに思ってた。
今もそういうのがあるか
分からないけど、
最近は
小さいものとか多い印象。
でも
大きさに関わらず
花束って
なんだか立派で
貰うと嬉しい。
因みに、
子供の頃は
親戚の結婚式で
小ぶりで可愛らしい
ウエディングブーケを
狙ってた。
花束
貰ったことはあまりないが、
渡したことは結構ある。
習い事とかしていると、
発表会なんかで渡す機会も多くなるよね。
最近は、花束はいらない。
って人が増えているらしい。
確かに、お世話結構面倒だものね。
でも、お花屋さんの前を通ると、
色とりどりのお花達と素敵な香りに
つい花束を作って貰いたくなる。
なかなか自分の為には買えないけどね。
paki
田舎に住む私が初めてオシャレで大きな花屋さんで花束を作ってもらった時の思い出
彩り鮮やかなのにシンプルで、それでいてセンスが匂い立つような花束は、相手に贈るまでそれを抱えていた私まで特別になったような気にさせてくれた
あれから赤いスプレー薔薇にカスミソウの花束を地元で見かけるたびに、なんとも言えない気持ちになる
自分の中に悲しいほどに冷たい感情がある
それを認める
人生そんなことの連続だ
花の経緯(経緯) (テーマ:花束)
男性は迷って、迷って、時間もないので、できる範囲で動こうと決断した。
仕事と一緒だ。
結婚相談所から紹介された人との初めてのデート。
どんな服装で、何を持っていくべきか。
食べ物屋は予約したが、それ以上のことは全くわからない。
特に、何をしたらいいのかも分からない男性は、花屋へ行き、花束を注文した。
*
観賞用の花は、花農家で作られる。
それぞれの花を美しく育てるために、農家が精魂込めて世話をして、その中でも美しい花を花市場へ持って行く。
花市場では、各農家が持ち寄った花を、魚市場のようにセリに掛けられている。
花屋はそれを仕入れ、店先に並べる。
花屋の花の需要は、一昔前と比べると減少している。
現代日本では、プレゼントや娯楽が多様化することで、国内の広い分野で「需要」が減っているのだ。
花屋は自分の店の特徴と売上を考え、必要数を仕入れる。
書籍などと異なり、生物なのでおかしなものを仕入れて売れなかったら、そのままゴミにしかならないのだ。
今回の注文は、よく知らない人との初めてのデートで渡す、小さな花束。
あまり大げさなものにしたくないとのことで、予算も1,000円分とのことであった。
花屋は店先の花のうち、フリージア、スプレー菊、アルストロメリアを束にして、更に引き立て役にユーカリを加え、1,000円分の花束を作った。
花は花市場から仕入れたものだったが、ユーカリだけは花屋が自分で育てたものだ。
フリージアの花言葉は「親愛の情」や「感謝」、スプレー菊は「清らかな愛」、アルストロメリアは「持続」。受け取る女性が仮に花言葉に詳しい人だったとしても、初めてのデートでは無難な選択に思えた。
男性・女性に限らず、花に詳しい人は減っている。こうして花言葉に気を遣っても、わかってくれる人は稀だ。
しかし、ここをおろそかにすると、せっかく花をプレゼントにしようと思ってくれたお客様の気持ちが、相手に伝わらない「可能性がある」。
プレゼントを上げる行為は、何にしても「あげる者の気持ち」が相手に伝わるかどうかは不確実で、「伝わってほしい」「気に入ってほしい」という祈りが伴う。その祈りが報われるよう選定し、素敵なプレゼントにするのは、プロとして当然のことだと、その花屋は思っていた。
そもそも花のプレゼントというのは、直接的なブランド商品や服とは違う。生物で、持ち帰ると世話が必要になる。世話をしなければ花は枯れてしまい、ゴミにしかならない。
そのためか、時代が進むにつれて売上が減ってしまっている。
だからこそ、花屋は、うちに来た客、そして花を渡された人が、この花で幸せになってほしいと思って花を売っている。
ただ、やったことは素早く計算して花束を作り、言葉に出したのは別のことだった。
「では、消費税込みで1,100円です。あと、よろしければ、店に届けて、帰り際に渡してはどうでしょうか。最初に渡すと荷物になってもいけませんし。」
デートに慣れていない人は、これをやりがちなのだ。
*
「今日は、お時間をとっていただいてありがとうございます。」
男性は頭を下げつつ、すでに一言目で後悔していた。
(まるで営業だ。)
だが、仕事だけして年を取ってしまったのだ。自分には結局仕事で培った能力しかなかった。
しかし、そんなこちらを見て、笑顔で対応してくれたからだろうか。
相手の女性は写真で見たより魅力的に見えた。
「その、ご趣味とか、聞いてもいいでしょうか。」
男性は自分で言いながら、「なんて典型的なセリフだ」と自分でも思った。
そして、漫画やドラマで見合いの際に緊張していた主人公たちが「ご趣味は」と言っていたのを「もっと気の利いたことを言えよ」と思っていたことを、内心で謝罪した。
(ごめん、君たちの気持ちを私はわかっていなかった。私ごときがそんなことを思うのは、おこがましかった。)
人間、追い詰められると頭が真っ白になり、難しいことや機転の効いたことができなくなるのだ。
正直、その後は、料理の味も、話の内容もほとんど覚えていない。
*
女性は、結婚相談所で紹介された人との最初の食事から、遅くなりすぎない時間に帰ってきた。
相手の男性はいい年齢であったが、おそらく女性と付き合ったことがないのだろう。そういう人は、結婚相談所からの紹介では珍しくない。
緊張していることがありありと分かり、話も結構飛び飛びであったし、飛び込み営業をさせられていた提携先の新人社員を思わせる狼狽ぶりであった。
だからといって、こちらも別に、そういう人を手玉にとれるほど経験があるわけでもない。
むしろ、「私はあの人に居心地の良い時間を作ることができなかっただろう」と思い返し、「あー失敗したかな」と思っていた。
別に、その後に何処かに行くこともない。
初デートはそれで終わりだった。
ただ、店を出るときに、花束をもらった。
まだ親しいわけでもない男性から花束をもらうというのは、初めての経験だった。
ただ、結婚相談所の紹介なのだ。親しくなろうとする関係の男女である。そういう人もいておかしくない。
初めて合う時に渡す花束が「大きなバラの花束」とかではなかったことも、安心した。もしそうだったら受け取りを断っていただろう。
次があるかは、分からない。
2回目のデートをするのかどうかについては、女性側からも男性側からも相談所に伝えることになる。
女性もどう答えるか、まだ決めていなかった。
花束を見て、顔を近づけて匂いを嗅いでみる。だからどうということもない。
しかし、悪い気分はしなかった。
とりあえず、バケツに水を入れて、花束の花を移してみる。
(後で食器棚から、花瓶になりそうなものを見繕ってみよう。)
女性の部屋は一人暮らしで、可愛いものがあるわけでもない。華やかさとは縁がなかったが、視界に生花があるのは、悪くない気分だった。
(まあ、今回は緊張して性格なんかもわからなかったけど、危なそうな人ではなさそうだったかな。2時間程度の夕食を一緒しただけだし、もう一回会ってみるだけ会ってみてもいいか。)
花束は、その役目を少しだけ果たしたのかもしれない。
花束
「先生、3年間ありがとうございました……!」
この学び舎で過ごした3年間を思うと、懐かしさと寂しさで胸がいっぱいになる。
敬愛する先生とも、大切な友達ともここでお別れだ。
いまにきっと新たな出逢いがあるだろう。きっと高校も楽しいに違いない。
それでも、この時ばかりは。
この3年間を共に過ごした友と。
私達を支えてくださった大好きな先生と。
別れる事を惜しみ、悲しまずにはいられない。
卒業式も、最後のホームルームも、門出式も終えて。
私達の贈った花束を大切そうに抱え持っている先生と、
最後の時を切り取る1枚を―――
「用途は、お祝いか何かですか?」
「あ、はい」
「どんな感じのにいたしましょう?」
「どんなのって……」
店員さんに言われて俺は分かりやすくどもる。どんなのって、どんなだ。うまく伝えられやしない。花なんて詳しいわけがない。固まる俺を見て、店員さんはにこりと笑った。
「じゃあ、贈る相手はどんな方ですか?」
「えと、母親です」
「お母様の好きな色は?」
「多分……黄色とかオレンジとか、そーゆうかんじの」
「ビタミンカラーですね。きっと元気で笑顔が似合うお母様なのですね」
「あ、まあ……そんなとこです」
俺の薄い反応にいちいち相槌を打って、ガラスケースの中から今言った色の花たちを取り出す。色んな種類、色んな色、色んな形の黄色と白とオレンジの花たちが合わさって、彼女の手によってあっという間に花束になった。
「こんな感じで、いかがでしょうか?」
「……サイコーっす」
うまく言えないけど、これを母さんが貰ったら絶対に喜んでくれると思った。花束を抱えてその人が笑う。笑顔が眩しい。なんか、今、すっごくうろたえてるんですけど俺。なんでかな、店員さんのこと直視できない。
「喜んでくれると良いですね」
会計をして、どうぞ、と俺に花束を差し出してくれる店員さんにお礼を言って店を出た。用意はしたものの、なんて言って渡そうか。こういうの本当に慣れてないんだよな。素直におめでとうで良いんだろうけど。息子が誕生日に花束くれるなんて雪でも降るかしら、とか言いそうだな。
「……ま、いっか」
綺麗な黄色いガーベラが腕の中で揺れた。花束の中で、俺が唯一知ってる花がそれだった。あとは何ていうのか分からない。母さんなら当然知ってるだろうから聞いてみるか。
花を買うのもなかなか気持ちがいいことを知った。今度また、誰かの誕生日でも何でもない日にあそこの花屋行ってみようかな。
貴方が記念日にくれた花束。
もうしわくちゃに枯れちゃったけど、
捨てられないの。でもこれは飾れないでしょ?
だからまた、綺麗な花束、ちょうだいね、
その花を見ながら
また、
2人の時間を過ごしたい。
特別な日の大きな花束より
なんでもない日の一輪を
(花束)