バレンタイン
バレンタインの前日は、毎年忙しい。
業者のように、50人分も作ったこともあった。あの時は、部活終わりで眠かったのを覚えてる。
アルバイトが忙しくて、作れなかったこともあった。きっと彼は手作りを期待していて、申し訳なかったのを覚えてる。
今年は、久しぶりにまともなバレンタインだ。
レシピをよく見ながら、見よう見まねでチョコマドレーヌを作る。
私は、これを受け取る友人の笑顔が楽しみで、楽しいと思いながらお菓子を作るのが久しぶりだと、気づかなかった。
この場所で
『じゃあ、19:30に迎えに行く!』
『わかった、ありがと。』
いつものように、友人がLINEを寄越す。
約束の時間までに、私はメイクをした。
19:20
私はいつものように家を出た。
コンビニで2~3分待つと、友人の車がやってきた。
「おつかれー!」
「おつかれー。」
私が助手席を開くと、友人は笑顔で助手席にあったカバンをどける。
「今日はねぇー、山行きたいの!」
「いいじゃん、どこの山?いつもの?」
「いつもの!」
そうして、車は発進する。
毎日、このコンビニから私たちの冒険は始まる。
スマイル
「あと、スマイル1つください。」
1番嫌いな注文が入った。
ほとんどは茶化しか罰ゲーム。
若い男の子たちが大半だ。
「....はい!ありがとうございます!」
そう答えて笑っては見せるが、マスクの中では頬が引きつっている。
どこにも書けないこと
鉛筆を持っては机に置く。それを繰り返す。
私の目は、ノート、机、教科書、消しゴム、メモ帳、用紙。それぞれを目に写してはため息を吐く。
彼と同じ学校へ行きたい。
彼の希望校を知っているが、私には賢すぎる。
学校名を書きたいけど、書くことはできない。誰にもバレてはいけない。友人でいられなくなるから。
卒業式の日、彼が友人と肩を組んで校門をくぐり抜ける姿を見た。
誰にもバレずに今日を迎えられた。
私の進学先と彼の進学先は交わることはなかった。
最後だからと、消しゴムと鉛筆を取り出す。
消しゴムカバーを外して、鉛筆を手に取るけど、手が止まってしまった。
やっぱり、彼の名前を書くことは出来なかった。
時計の針
時間が無い。
いくらあっても足りない。
そんな思いで、貴方に会える瞬間を心待ちにする。
お互いに忙しくて、会えてもすぐに離れることになる。とても悲しい。
「まだ行かないで!」
そう言うことができればどれだけいいだろうか。
でも、余計なプライドでその一言が言えない。
そうして、貴方と巡り会い、離れる。それを繰り返す。
それが、長針と短針。
それぞれが重なる一瞬の出来事。