一尾(いっぽ)in 仮住まい

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9/4/2025, 2:41:15 PM

→短編・勇気

その出会いは突然で、僕は言葉を失った。
彼女は、夏の暑さも満員電車の人いきれも、無関係みたいな涼しい顔をしていた。石鹸みたいな女の子。
同じ電車に乗り合わせた僕は、彼女の背中から目が離せない。
あぁ、どうして今日この時に、出会ってしまったんだろう? いや、今日だから、彼女が気になったのか? 
僕は、なんとか彼女に話しかけようとした。
言うべき言葉は、知っている。なのに、喉に貼り付いた言葉が、僕の口を出ることはなかった。
彼女は、次の駅で降りていった。
僕は彼女の背中を見送った。
夜になっても、彼女を忘れることができない。
僕にあと少しの勇気があれば、声をかけることができたのに。
「背中にデカい蛾が止まってますよ」と……。

テーマ; 言い出せなかった「 」

9/3/2025, 4:13:27 PM

→かくれんぼ


お~い!
お~い!
どこに居るんだ〜い!
私の愛〜!
もう降参するからさぁ、隠れてないで出て来ておくれよ〜。
そろそろ誰かを好きになりたいんだよ〜!


テーマ; secret love

9/2/2025, 4:13:01 PM

→ペジフォミア

ページをめくるように現状の一変を願う心理状態。現実逃避の一つに分類される。
この心理状態が継続すると、本を読了したような充実感と共に、現実を終了させてしまうことがあるため、注意が必要。
特効薬は、リアルな読書である。


テーマ ; ページをめくる

9/1/2025, 1:38:15 PM

→失せ物

諸々に夏はあったはずだ。
確かにあったはずなのだ。

ぬるくなったビール
音だけの花火
小学校から聞こえるプール実習の笛
歩道に落ちたアイスクリーム
夏祭りの後の神社の暗闇
着崩れた浴衣の衿元

もう、見つからない。

テーマ; 夏の忘れ物を探しに

8/31/2025, 12:12:18 PM

→夏休みの宿題。

夏至を過ぎた太陽は、日に日に落ちるのが早くなる。1ヶ月前は、まだ明るさを保っていたこの時間も、今ではほんのりと薄暗い。
8月31日の夕方。
学生ならば夏休みの終わりの今日に、背中に哀愁を漂わせるかもしれないが、大人の私には、ごく普通の日常の1日であって、特別さはない。
さてさて、今日は日曜日だ。明日からの平日に備えて、英気を養おう。ビールと簡単なつまみで晩酌を――、
……ん??
あっ、しまった!
友人の残暑見舞のハガキに返信するのを忘れていた!
こちらも残暑見舞いを出そうと思ってたのに!
仕方ないな、メールで済ませよう。
大丈夫、まだ8月31日は7時間ほど残っている。
さぁ 急げ!
かくして私は、友人にメールを送ろうとスマートフォンを取り出した。
夏休み宿題も終盤が勝負だったよな。昔からギリギリにならんと動かない性分は変わらんなぁ〜。


テーマ; 8月31日、午後5時

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