最後の声は、もう覚えていない。
研ぎ澄ますほどの感覚の繊細さもないけれど、僕の持つ五感全てを研ぎ澄ませ、遠い記憶を手繰り寄せてみても尚思い出せずにいた。
ただ、あの時初めて観た君の泣き顔だけが、九年経とうとしている今でも脳裏から離れない。
よく笑う人やつだと思っていた。
屈託のない笑顔に白い歯が眩しくて、どこにいたってよく目立つ君はなぜこんな僕に構うのかと不思議でしょうかなかった。
頭の回転が早くIQも高いのにそれを鼻にかけたりせず、誰にでも尻尾を振るわけではないが偏見や差別を持たないあまりにも真っ当なやつ。
そんなお前が好きだったのに。
真剣になると黙る癖も、辛いものが苦手なのに人に合わせて言えない所も、思考するのが好きすぎて謎解きばかりにハマるところも知っているのに、何か足りない。あと互いのなにを知れば、僕ら二人は完結できたのだろう。未完成のままの物語を未だ閉じることができない僕は、過去形で君の全てを語ることができずに情緒を不安定にさせていく。それでも時も環境もいつしか流れて変わりゆき、君とは遠くの幸せをたくさん腕に抱える様になった。
僕らは何処まで行くのだろうか、互いを縛り合わずには生きられない。そんな呪縛からはいつしか解放されようと、次会った時に言ってみようかと考える。
青に浸って沈んで死んでいくこの気持ちが更なる呪いとなりません様にと、夏の空の下でそう願った。
貴方の涙や言葉を
呪いでなく愛と受け止めるから
貴方の中で私が失ったものではなく
綺麗な思い出となりますように
短編「蝶を握る」
作 余白
登場人物
❀日野 雷花(ヒノ ライカ)‥紘の初恋の相手
❀砂川 紘(スナカワ ヒロ)‥雷花が心を許す後輩
「またね、紘くん」
まつ毛の先に見えた蝶は幻覚であった。
が、僕にはそれが本物にしか見えず、指先で掴もうと手を伸ばした。
「紘くん」
揺れる声で意識が戻る。
僕の指先は彼女のまつ毛に触れ、涙が溢れ出していた。
どうしても届かない、この人の奥底にはどうしても触れられないのだと理解する。
深い深い悲しみに、僕は溺れていった。
「ふふっ。またね!」
彼女は僕の全てだった。溶かしていった心をどうにもしてくれないまま、僕の元を去った。
桜がひらひら舞う春のあの日、彼女を生涯恨むことになるとそう感じた。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
「結婚しよう」
「え?」
「結婚しようよ、紘くん」
大きな目に吸い込まれた僕は、
彼女以外のなにも目のうちに入れることができない。
彼女が好きだと言った色の絵の具で、今日も絵を描いている。
「だって相性いいと思うの、私たち。
ほら、掃除が苦手なのが一緒でしょ?
結婚したって喧嘩にならないじゃないの」
訳の分からない彼女の言葉を解読したくないと思った。その純度のまま脳から全身に送り込み、血液にしてしまおうと思った。これが証明、僕が彼女を好きであることの証明だ。
僕の飲んでいたオレンジジュースを手早く奪うと、全て飲み干して彼女が笑いかけてきた。
「きめた、紘くんは私が好き。
ね、好きでしょう?」
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
''好きな人がいるの、だから帰るんだ東京に。''
どうやら僕は彼女と結ばれることは永久にないらしかった。蹴り飛ばそうとした石ころを拾い上げて思いきり投げると、ゴツん、とどこかの家の窓にぶつかった。その音が妙に不快で、僕の心は混乱した。
一体僕は、何に苛ついているのだろう。
「嫌いです、先輩のこと」
僕の蝶は、僕の成長を待ってはくれない。
「‥そう、そっか。
私はふられちゃったみたいだね」
えへへ、と笑う彼女に僕は冷たい眼差しを向ける。
なんというずるい蝶、僕は二度と恋なんてするものかとそう思った。
やけに大事そうに見えた薬指のリングは、彼にもらったものなのだろうか。所詮僕は蝶に踊らされる子供でしかないみたいだった。
そうか、僕は悲しかったんだ。彼女が僕を好きにならないという事実だけが、永遠に僕を蝕んでいく。
青い空にひらひら舞う蝶々をみつめながら、伸ばした指先で握りつぶしてしまいたいとそう思った。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
こんばんは‥☪︎ 余白です。
今日は月曜日、週初めですね。
皆様お仕事、学校、お疲れ様です。
疲れましたね、ゆっくり休んで癒してください。
悲しさややるせなさは、ときどき夜に突然やってきて覆い被さってきたりします
重いよ〜といっても、なかなかどいてくれなかったり
そんな夜はちょこっと悲しみに浸ってみるのも悪くないかなと最近思います
皆様の一週間が素敵なものになりますように‥*̣̩⋆̩
頑張りすぎず、時には休みながらゆっくり行きましょうね
それでは、また*★¨̮
短編 「涙をみたことがない」
作 余白
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※登場人物
⚪︎私(物語の語り手)
⚪︎彼(私の最も好きだった元恋人)
⚪︎その人(私の現在の恋人)
「本当に、はーちゃんは泣かないよね」
ふと彼の言葉が頭をよぎる。
今頃、どこで何をしているのだろうか。
記憶の中の黒髪が揺れ、夏の夜の香りと湿度が肌に張り付く。あの夏の夜以降、彼にまつわる一切は遠く離れて私の元から消えた。
私は、弱さを見せるのが極端に苦手であった。
それが彼をひどく不安定にさせた。
「結局はーちゃんにとって、僕はその程度なんでしょう?」
私を責める刃だと思っていたあの言葉も、今思えば彼の必死の歩み寄りの一つだったと考えられる。
「弱さを見せて」という、彼の本心にたどり着くまでには長い長い時間が必要だった。
幼く、若く、快活であった私は、思慮深く、控えめで依存心の高い彼の良き理解者にはなれなかった。
誰に見せるわけでもない私の涙は出るところを忘れ、いつしか枯れていった。
努力も虚しく、彼の前で崩れることは二度となかった。立ち上がれなくなり、ドロドロに溶け、あなたに救われてしまいたかったのに。
それができない弱さに、浅い笑みを浮かべて絶望した。私はいつ、誰になら涙を見せられるのだろう。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
「僕の精神の安定している時でお願いします」
その人は実直な言葉だけを発する人であった。
口から出る言葉に装飾はなく、それは時に距離や痛い事実を含んでいた。やけに楽で心地がよい、自然体とはこの事かと私は初めて他人に気を許した。
自らの欠点を進んで開示する程に、その人にに対する自己開示に躊躇がなかった。
布団の中で足を擦る。冷えた足は二度と体温を取り戻さない。私はいつか、涙を見せられるのだろうか。
私の愛するその人に、涙を見せることができるのだろうか。崩れ落ち溶けていき、そこから救い出してもらうことに戸惑うことなくありがとうを言えるだろうか。
体温を分けてもらったおかげで少しだけ温まった足先に愛情を感じながら、この夜が長く続けばいいとそう思った。
- - - - - - - - - - - 𖤘 - - - - - - - - - - -
みなさんこんばんは、余白です。
今日はやけに冷え込んでいますね‥
お身体お変わりないでしょうか?
もう週末なのですね‥!なんだか日々があっという間で、、驚いています。
それに2025年が始まってもう三ヶ月が過ぎたなんて‥!
気づいたら半年が経過してしまいそう。
素敵な夜をお過ごしくださいませ。
それでは、また☽⁺。゚
「七色のともだち」 有馬壮編
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※登場人物
⚪︎有馬壮 アリマ ソウ
(高校二年生/男子/七瀬の幼馴染)
⚪︎七瀬 薫 ナナセ カオル
(高校二年生/女子/有馬の幼馴染)
※これは前回出した「七色のともだち」瀬川編とは違う世界線の、けれど同じ構成で描かれた色違い作品です📕
「七瀬、帰ろう」
振り返った彼女の髪が揺れる、その黒黒とした艶に僕は見惚れている。
「うん、帰ろう」
幼馴染、それ以上でも以下でもない関係性。
変わることのない関係性。
誰も踏み込むことのない関係性。
決してその先には行けない関係性。
恋人になりたいなんて望みはしない、だけど七瀬に恋人ができません様にと心の底から願っている。
七瀬の幸せを純粋に願えない僕は、本当の意味で彼女を愛せてはいないのだろう。詰まるところ、彼女を好きでいる自分自身の方が、よっぽど好きに違いないのだ。
「溶けてるね」
水色のアイスバーを頬張る彼女が言う。僕は彼女の頬に垂れたソーダ味の水滴を見つめていた。僕の手元にある白色のアイスバーは、どうやらドロドロに溶けているらしかった。
どうでもいい。彼女が僕を好きになります様に、彼女が僕を好きになります様に、彼女が僕を好きになります様に。付き合う事を望まないなんて、嘘だ。彼女が僕に抱きついて愛を囁けばいいのに、彼女が僕だけのものになればいいのに。素知らぬ顔でそう望んでいる僕は卑怯で、その心地の悪い罪悪感を持ちながら七瀬の隣平然と歩く。幼馴染の皮を被った化け物である。
「そういえば洸くんがね、私の肖像画を描きたいんだって。それを、次の絵画のコンクールに出展してもいいかって聞かれたんだよね」
眉間に皺が寄る。この世で最も不快な言葉は彼女が口にする「洸くん」である。
彼女の一番は僕なのに、一番近い友達は僕なのに、一番近くにいたのは僕なのに。それでも天邪鬼の僕は微笑みながらありもしない余裕を見せる。
「いいね、きっと素敵に描いてくれるよ」
七瀬は僕の言葉を無視して、アイスの棒を舐め始める。ドロドロに溶けた僕の白色のアイスバーはもはや食べるところがなくなっていた。彼女の呼ぶ「洸くん」を思い出し何度もイラつく。バキッと音を立てて右手にあったか細いアイス棒が折れた。
「機嫌、悪いの?」
もう味がしないであろうアイス棒を咥えながら、七瀬が僕を覗き込む。僕は少しだけ微笑んで、彼女を無視して歩くスピードを少し早めた。