秋雨前線とやらのお陰で
最近は涼しい風が吹くようになった。
まだ日差しは刺すように痛いけど
日陰に入ってしまえば
こちらのものだ。
もみじもイチョウも
一向に色を付けない。
去年と同じ、
気温が中々下がらないからだ。
夕方、
家に帰りたくなくて
夜まで遠回りして帰った。
風があるから長く歩ける。
でも家にはいつか帰ってしまう。
息苦しかった。
話を聞かないというのは
こうも人に不快感を与えるらしい。
家族の誰一人として
私の話を聞いてくれる人がいるどころか
呼んでも無視されるばかり。
空気のように扱われる家に
帰りたい人なんて
本当にいるんだろうか。
"Good Midnight!"
今日も空だけが友達。
涼しい風で
秋色は少しずつ
世界を色付けていく。
もしも世界が終わるなら
私は今日をやり直したい。
納得いかないことだらけで
あれもこれもしたかった。
食べたいものは
食べれなかったし、
正直な気持ちも
打ち明けれなかった。
全部終わるなら
どうでも良くなるなら、
溜めてた思いを
全部吐き出して
重すぎる肩の荷を
降ろしたい。
息が詰まるような毎日。
特に夢も趣味もなく
ただ生きるためだけに
すべき手順を踏んでるだけ。
起きて、食べて、
歩いて、食べて、寝る。
ロボットみたいにずっと同じで、
刺激が欲しいからって
危ないことに手を出すことすら
臆病で出来なくて。
いっそ
何かの病気って言われて
全てをその病気のせいにして
楽になりたかった。
嫌なことだらけで逃げられない。
逃げたら怒られるし、
連れ戻されるし、
罰が与えられる。
怖くて目を瞑っても
やっぱり怖い。
"Good Midnight!"
もしも世界が終わるなら
次は生きやすい世界に生まれたい。
うっかり紐を踏んでしまったので
靴紐を結び直す。
こんな僅か数秒の間に
過去のちょっぴり悲しいことを
いくつも思い出してしまう。
一生懸命に描いた絵が
白紙の方がマシと言われた時。
その紙すら邪魔なので
返すから捨てろと言われた時。
靴紐を結び終えただけなのに
ポロポロと涙が零れる。
私の頭の中は
もう悲しかったことでいっぱいだ。
このまま消えてしまいたくなる。
少し自分が否定されただけで
こんなに生きにくい世界なら。
私が泣いていても
もちろん誰も足をとめない。
結び目は緩く、
すぐ解けてしまうので
また結ぶ。
苦しくて悲しくて
今すぐ家に帰って大泣きしたい。
再び結び終わると、
私は走り出していた。
今出せる全速力で。
何度も転けそうになった。
何度も人とぶつかりそうになった。
でも私は止まらなかった。
"Good Midnight!"
押し殺した泣き声は
いつの間にか唸り声に変わり、
気づいた時には夜だった。
幸せってなんだろう。
本を読んでたら心が落ち着く。
でもそれは
心が満たされてるわけじゃない。
幸せってきっと
心が満たされてることだ。
料理を食べてたらお腹が満たされる。
でもそれは
ずっと食べていたいとか
そういうわけじゃない。
幸せってきっと
ずっと続けていたい、
続いていて欲しいものだ。
好きな映画を見たら?
自分の部屋で毛布にくるまったら?
多分どれも幸せとは少し違う。
曖昧で
答えが一人ひとり違うからこそ
探すのも、見つけるのも難しい。
でも真夜中は他とは違う何かがある。
私は真夜中がちょっと好きだ。
眩しく光るコンビニ、
ぽつんと佇む自販機、
帰宅・出勤する車の音。
他にも沢山。
一つでも欠けてたら
どんなに夜がいいものでも
私は好けなかっただろう。
"Good Midnight!"
生まれてから
もう何千回と繰り返した
1日を締めくくる真夜中。
幸せの答えは、まだ見つからないまま。
温泉には
多くの人が来る。
特に9月は多い。
それに色んな人が来る。
9月は環境がガラッと変わることが
毎年あるので、
言わば
センチメンタル・ジャーニーということ。
ここは白雲峠にある温泉宿、
「真夜中の泉」。
私は今夜も
フロントスタッフとして
お客様を出迎え、ご案内する。
普通の人間のお客様から
ネブラスオオカミのお客様まで、
真夜中の泉は
白雲峠のみんなに愛されている。
なぜ名前が真夜中の泉かというと、
ここには露天風呂があって
真夜中に丁度どの温泉も
暗く黒くなり、
そこに星屑と月が浮かぶから。
もちろん営業時間が
真夜中からだからっていうのも
あると思うけどね。
建物が全て木でできたこの温泉宿は
白雲峠で1番遠い場所から来てくれる
プチ旅行を楽しむお客様も大勢いる。
私はそんな
温泉を楽しみにしながら
受付をするお客様を見るのが
毎日とても楽しい。
ここのフロントスタッフは
頭が痛くなるほどの靴箱の鍵の保管で
少しきつい所があるが、
お客様の楽しみそうな顔は
私たちフロントスタッフの仕事を
笑顔を使って応援してくれている。
"Good Midnight!"
今日も温まりたいお客様や、
プチ旅行しに来たお客様が
フロントへとやってくる。