真っ青な海。
塩分濃度が高い海では
クジラは500kmまで
会話ができるらしい。
海の底では
ゆらゆらと
水面の光が泳いでた。
クラゲは流され、
ウミガメは呑気に、
シャチは力強く泳いでいた。
プラスチックゴミがどうとか
そういう話はしないけれど、
ただのんびりとした
この海の中での時間が
私は好きだった。
夜には海が月を反射させ
キラキラと輝く。
真っ暗な海では
星屑さえも浮いてくる。
今夜は寒い。
水が冷たくて
肌に染み込んでくる。
それでも私は
ここにいたいと。
"Good Midnight!"
真夜中の海は
驚くほど静かで
私の独り占め。
私は恋をした。
でも君は猫で、私は犬。
成就する見込みがないから
私は勝手に君を好きでいる。
そう決めたのだけれど
君に会いたくて、
君に会う資格が欲しくて、
ずっと浴槽に入ってた。
だって犬臭いのは嫌だろ?
風呂場なら
鳴き声の練習もできたんだ。
かれこれ8時間くらいだよ。
にゃあって鳴くのって
結構難しいし
コツも掴みにくいんだよ?
君は口を開けば
簡単に鳴けるけどね。
それから木登り。
これがもう大変だったよ。
助走を付けても
爪が引っかからなくてさ、
結局ジャンプでカバーしたんだ。
ねぇ、
私は君に会えるかな。
君に会って
少し話ができるくらいには
なれたかな。
"Good Midnight!"
少しの望みも無いと
猫は知っている。
だって私は猫で
君は狼なのだから。
ホコリをかぶり、
色褪せた物があった。
手で払ってよく見ると
それは日記帳だった。
もう二度と書かないと
あの日閉ざされた日記。
私は物語を作るのが大好きで、
特に既に作った物語と
他の物語をそれとなく繋げるのが
本当に好きだった。
伏線を張っておくこともあれば、
思いつきで繋げることもあった。
物語を書いていたことは
ルーズリーフには収まらないくらい
幸せなひと時だった。
でも私も人だ。
どれだけ書きたいことが
頭に浮かんでも
上手く書き表せなかったり、
書きたいことすら浮かばなかったりと、
私はスランプになった。
あんなに物語を書くのが
好きだったのに
もうペンを握ることさえ
苦痛になっていた。
何を書いても
自分が納得する、
面白いと、
また書きたいと思えるような
満足いくものが書けなかった。
私の書いたものは
誰かに見せていたわけでは
なかったので、
私自身が満足しないと
意味が無かった。
好きだったことが
嫌いになりそうで、
好きなままでいたくて、
私は日記帳や
ルーズリーフに書いていた物語を
隠して閉ざしてしまった。
もう書かない。
いや、書けない、と。
"Good Midnight!"
ずっと忘れていた。
忘れようとしていた。
しかしいつも
頭のどこかで物語を作ろうとしていて、
切っても切れない
私の大切なことになっていた。
久しぶりに持つ
長時間書く用のペンは
何故かまだ感覚が手に馴染んでいた。
ベランダから見る夕焼け。
侵食していく夜の空。
全てが新鮮で綺麗に思えたのは
10代までだった。
何をしていてもため息ばかり。
毎日毎日
将来の不安しか持ち合わせていない。
そんな私の体温を
木枯らしが奪っていく。
外に出るのが怖いんだ。
近所ならまだマシだが、
遠出などは絶対に無理だ。
足がすくみ、汗が吹き出し、
鼓動が早くなり、
息が荒くなる。
だからベランダは
私と外を繋ぐ
外に1番近い場所。
そりゃあ近所の方が
もう外だし、
近いも何も外だし。
だけどベランダは部屋の一部で
なのに半分外。
きっぱりと別れていないのが
私にとっての気持ちのやり場になる。
不安な時、寂しい時、
夜空を見たい時、
なんとなくベランダがいい時。
カラカラと窓を開けたら
第2の家のような安心感。
"Good Midnight!"
ベランダに出るだけで
悩みが無くなる訳じゃないけど
逃げ道が増えただけだけど、
なんだかそれでも
いい気がしてくるんだ。
今夜くらい
真夜中を楽しんでもいいかって。
美しい景色に、
匂いに、
私は今感動している。
心を動かされている。
自然のど真ん中。
草原の中心では
草だけが風でなびき
草だけが私を包んでいた。
風の音と
遠くの方で微かに聞こえる小鳥の声。
静寂とまではいかない
この空間が
とても居心地のいい場所だった。
本音で構成された私を
私だけが見てあげて、
私だけが認めてあげれる。
互いに苦しめ合ってきた日常から
2人で少しだけはみ出して。
優しく抱きしめてあげて
撫でてあげて
涙を拭いてあげる。
私が誰でもいいから
誰かにしてもらいたかったこと、
全部私にやってあげる。
沢山褒めてあげる。
ずっと一緒にいてあげる。
不思議だ。
実際にもう1人の自分がいて、
その自分を労わっているわけでは
ないというのに
私は暖かくて満たされている。
草の匂い。
目を開ければ
光が私を眩しくさせる。
今の私には
太陽は少し暖かすぎるし、
眩しすぎるな。
"Good Midnight!"
ちょっと眠ってしまえば
こんなに眩しい真昼間は
真夜中に変わってしまうのだろうか。