時を止めて
時なんて止まればいい。
朝も来なくていい、ずっと夜でいい。
でも、夜は暗くて、ずっと一人。
朝は寒くて、みんなと会える。
いや、やっぱり時なんて止まればいい。
変わらなくていい、起こらなくていい。
ずっとずっと、このままがいい。
「金木犀か…」
晴れといえば曇り、曇りといえば明るい、そんな中途半端な空の下。
先生は感心したように「金木犀」と呼んだ花に手を添える。
「綺麗だなぁ」
朱色で星形のそれは、薄暗く湿った土を華やかに彩っていた。
「私としては、花よりも…柿でもなっていてくれた方が嬉しいですけどね。」
それを聞くなり先生は、「風情のないやつめ」と口を尖らせた。
「懐かしい…」
私は、腰を屈めて金木犀を一つつまみ取った。下から上からと花弁を覗き込む。
「…やっぱり、柿でもなってくれた方が、嬉しかったのに。」
立ち上がり、夕焼けに浮かぶ己の影をきつく睨みつける。
乾いた土を、朱色の花弁が彩った。
「キンモクセイ」
わかっていた。わかっていたはずだった。
貴方は私の横で、静かに寝息を立ててるはずなのに。起きたら、暖かい腕で私を包み込んでくれるはずなのに。
「おはよう」と、微笑んでくれるはずなのに。
今、私の横には、冷たくなった先生がいる。
わかっていたはずなのに。
私が涙で頬を濡らしても、先生はもう慰めてはくれない。涙を拭ってはくれない。
私を心配する声も、もう聞けない。
「先生…?」
行かないでと、願ったのに
LaLaLa GoodBye
さようなら。あの日が来るまで さようなら。
君が去るまでさようなら。君が来るまでさようなら。
ラララ ラララ さようなら。
呑気な鼻歌歌ってろ。呑気に空でも見上げてろ。
思い出すまでさようなら。
ラララ ラララ さようなら。
君を見るまでさようなら。
____この前、一人で家に帰ってたときね。遠くから、十歳くらいかな?悲鳴が聞こえてきたの。
びっくりしちゃって、急いで駆けつけたんだけど…。
周りに二人くらいの男の人がいてね、その子のこと縛り上げてたの。
たぶん、売ろうとしてたんだね。
顔も整ってたし、親もいないみたいだったから。
なんとか助けてあげたんだけど、どこかに走って行っちゃって。
…その子、そのあとすぐに自殺したらしくてね。
「ほんとさ、酷い話だよね。ね、知俊くん。」
蝉の鳴く、青い空の下。
紀久代さんは、頬杖をついて僕を見た。
その冷たい、突き放すような表情に、酷く息を詰まらせたことを、よく覚えている。
快晴の追憶