"雪明かりの夜"
とある星で1人きりだった私は、降りしきる雪を木の下から座って眺めていた。
1万年の間、宇宙を漂って不意に辿り着いたこの星で、ただずっと歩き回っていた。
木の数を数えたり、一周どれほどかかるのか計算してみたり、きっとこの世の誰よりも知り尽くしてしまった。
期待していた生命はおらず、がっかりしてしまったのは記憶に新しい。
雪が降ると言うのはこの星にしては珍しい出来事だった。この星に降り立ってからというもの、上から見下ろすことしかなかったこの雪は、今や私を見下ろしている。
ゆらゆらと空を舞い、ふわっと地面に降り立って積もっていく。
眺めていると、空がいつも通りに満点の星空に輝いているのに気付いた。
美しいと心から感じる。もしかしたらあの星が落ちて来ているのかもしれない
生きているのだから、不思議なこともあるものだと、白く輝いて眩しいほどの雪を手で受け止める。
皆と同じように地面に積もることはなく、私の体温でじわと溶けていった。
12/8 "雪原の先へ"の続きです。宜しければ読んでみてください❄️
"祈りを捧げて"
ある晩のこと
暇だったので外で歩いてみれば1人の男を見かけた。
石の前で目を瞑って、何かを訴えているよう
こんな夜になにしているのか、不審者かなぁと思って家に帰った。
次の夜も暇だったので外に出た。
気になって昨晩に男のいた方に目をやると、昨日と変わらぬ様子で石の前にいた。
気になったので声をかけてみた。
返事はない、見向きもせずにじっと堪えて石に祈っている。
予想通り不審者だったらしい
満足したので家に帰った。
やっぱり次の夜も暇だったので外に出た。
そしてやっぱり、男も同じ様子だった。
何をやっているのかとじっくり見てみれば、石に何か彫ってあるのがわかった
何が彫ってあるのかはわからなかった。見渡せば似たようなものがたくさんある。
なんとなく男にも見覚えがある気がしたが、よくわからなかったのでやっぱり家に帰った。
なんとなくその夜は、地に足がついていないような気がした。
"遠い日のぬくもり"
ある夏の夜。
雨が降っていた、じめじめとしていて心地の良い夜とは言えなかった。
珍しく君の帰りが遅くって、連絡も来ないから心配になって傘を差して探しに行った。
傘は持って行ったはず、濡れて冷えてしまっていないかな
晩御飯が冷えてしまう
何か事件にでも巻き込まれてしまったの?
なんて色々考えながら傘に当たる雨音しか聞こえない街を彷徨っていると、やっと君を見つけた。
君は、人通りの少ない歩道で傘を投げ出して倒れていた
なりふり構わずに傘を捨て置いて、駆け寄る。
長い間雨に打たれて、体は冷え切っていた。
けれど、冷たいのはきっとそれだけのせいじゃない。
それから救急車を待つまでの時間。手を取って脈の確認をしていた。
あるけど、少ない気がする。
人工呼吸だとか心臓マッサージだとかの単語が頭の中に埋め尽くされる。
けれど素人の私が触れて壊してしまったら?
せめて温めるぐらいは。
私は傘を近くに置いて君に覆い被さった。
雨音が耳の中でこだましている
まるで、私を責め立てているような雨。
今まではずっと、私の方が冷たかったのに、
私は君の手を何度も何度も撫でて、願っていた。
"揺れるキャンドル"
ある森の奥のこと。
私は利き手にカンテラを持って、石造の建物を訪ねていた。
辺りは静まり返り、手元から照らされる光だけが頼りの夜だった。
人の気配がなく呼びかける勇気が出ない私は、重厚な扉に手をかけて押し込む
中に入ると一層暗く、腕を伸ばして照らしてみると赤い絨毯が敷かれていることがわかる。
相変わらず人の気配が感じられず、埃の一つも落ちていない。
威厳を持った佇まいの家具たちが一斉に私を威嚇する。
私は怯みながらも扉を閉め、足を進める。
石造の建物は響きやすく、足音と呼吸音、カラカラと揺れるカンテラの音がこだましていた。
私が目指しているのはただ一つ。
ひっそりと隠れるように位置付けられた階段を見つけ出し、深く呼吸をした後に足を一つ降ろす。
心地の良い音がコツコツと嫌なほど響いて、足元から押し返されるような振動が伝わってくる。
漸く辿り着いた地下では長い廊下になっており、緻密な燭台が整然と並べられている。
白く濁った大きなキャンドル達は、私に気づくなり一斉に火を灯して、歓迎してくれているようだった。
ゆらゆらと話しかけるキャンドル達に私は怯えていた。
私はただ冷静に、慎重になりながら地下の奥を目指した。
"光の回廊"
とある山の奥、ただ私は生きていた。
木々や動物に囲まれて、まるで牢獄の様だとも感じている。
青々と生い茂った自然の中から生物たちの鳴き声がする
時に嬉しそうな、時に悲しそうな声をあげるもので私の居場所はないように感じてしまう。
山の天候などあってないようなもの。
先程まで呆れるような晴天だったのにバケツをひっくり返したような雨が降ることなどもある。
ザアザアと木々を濡らし、泣いている。
お前も独りなのかと問うてみても、ただただ泣くばかり
空を眺めるのも飽きるので奥に下がって本を読むことにした。
本棚から何も考えずに一つ抜き去り、ぱらっと捲って読み始める。
暫くすると雨の音も止むので適当に放って表に出ることにする。
回廊に出て、屋根の下から覗き込んでみるとすっかり泣き止んで虹なんか出している。
チチチッと小鳥が一つ鳴いて、飛び立つところを目にする
やる事も無いので、いざなわれてみることにした。
なんとなく出られないような気がしていたのに、案外容易く抜け出せたもので瞠目させられる。
私は、どうしてなかなか生きているらしい。
気まぐれに飛んでいるのかもしれない、けれども確実に私を導く小鳥の尾を追って駆け出した。