"小さな命"
ある日、よくわからない生命体を拾った。
近くの公園の柵の上できょろきょろしているところを発見した
手のひらほどの大きさで、ふわふわしていて可愛かったのでうちに連れ帰った
突然連れ去られたこともあり困惑している様子でいた
何か食べさせておこうと思って、チョコが混ぜ込まれたパンをちぎって目の前に差し出す
警戒心など何処かに忘れてしまったようで、差し出したらすぐに食べた
そんなことをしていれば私に大層懐いてくれたようで、どんな時も暇があれば私の手に擦り寄って嬉しそうにしていた。
小さいくせして温度が高く、手を添えているだけで暖かかった
一体こいつはなんなのか
気になりはしたが、調べることはなかった
牛乳や果物なんかを私の手ずから食べさせた
どんなものでも物怖じせず嬉しそうに食べる姿が可愛いと思った
ある朝、そいつは動かなくなっていた。
拾ってから一週間後のこと。
持ち上げてみると昨夜より少し軽く、無機物の様な印象があった
冷たい体から、もう生きていないということを小さく告げられる
ゴムのように少し硬くなったそれを、気味が悪いと思ったことは、きっとおかしいのだと思う
私はそのまま家を出て庭先に手で穴を掘った
そっと穴の底に横たわらせ、両手で包み込む様に柔らかい土を被せた
手頃な石を見つけて、突き刺しておく
家の中に戻った時、確かにいつも通りになった部屋になったことを実感した。
"Love you"
ある夜のこと、バスに揺られている私は独りだった
伝えたかった、伝えられなかった言葉が頭の中で溢れて止まらない
胸の中がいっぱいで満たされている
幸福感と圧迫感とが共に押し寄せる
窓の外には懐かしい通学路が広がり、焦燥感が一層湧きあがり眩暈がしてくる。
自業自得だ、独りで勝手に苦しくなって惨めになっているだけ
こんなことになるから最初から会えなければ良かったと思うのに、会えて良かったなんて思っているチグハグな心に追いつけない
でも、二度と会いたくなんてない
わたしの知らないところで、笑ってて
"太陽のような"
燃え続けるのは疲れてしまう
ただの自己満足だったとしてもそれは変わらないこと
たくさんの空気を吸い込んで
誰にも聞かれないように細く細く吐き出して
そっと心の中で燻っていた本音を曝け出す
誰かに聞かれては、たまらない
ずっとずっと心の中で大切にしまい込んでいたそれを、
また、誰にも言えないまま
そっと心の奥にしまい込んだ。
"0からの"
脱却。
藁にもすがる思いでいた。
筆を握り、一目惚れした古典を一心不乱に臨書していた。
字が綺麗になりたい
最初はとても小さな願いだった。
左利きなこともあり、字を書くのは苦手意識があった
綺麗な字が書けたら心地良いだろうなと思って始めたのが、書道。
気付けば生活の一部となり、心から好きと言えるものの一つになっていた。
だから書の腕を鍛えられる整えられた環境をもぎ取り、敷かれた下敷きの上に座っている
平日は大体3時間。休日は6時間ほど、通しで書に向き合っていた。
専門の場所での学習は楽だとは思っていなかった。
けれど、家に帰ってそのまま眠りこけて夜中に目覚める
なんてことがしょっちゅうになるほどキツかった
そんなことちっぽけになるぐらい書道が好きだった
ある日、書き続ける書を決めることになり、いくつかの法帖を取り出して眺めていると好みドストライクの書に出会った。
線の強弱も違えば字それぞれの大きさもバラバラ、流れるような書風には奔放さが深く窺える。
なんといっても小気味の良い連綿線が私の好みでしかない!
絶対書いてて楽しい。極めたい、極めてみせたい!
その書と目が合って0.1秒でそう思った。一目惚れと言っても過言では無い。
もしその書が人だったら誘拐を目論むほどには惚れたと思う
早速書いて先生に見せてみれば「案外悪くない」と言われた
褒めることが滅多に無い先生なので、心の底から喜んだ。
けれどそのまま成長できるほど、書の道は甘くない。
すぐに行き詰まった。独特すぎる雰囲気や連綿線の再現は未熟な私にとって酷く難しい。
手本を注意深く眺めたり、先生からのアドバイスを事細かに書き留めた。
右上がりが特徴の書でもあったため裏返して吊るし、右上がりが甘い部分に印を付けたりなどしていた。
賞はいくつか貰ったが、満足いくものには到底なり得なかった。
少しでも、ほんの少しでも0で無くなっていれば嬉しく思う。未熟な私の唯一。
"同情"
心の柔く脆いところを撫で続けること
他人に憐れまれるのを嫌がり、怖いと怯えている
臆病な私は自他ともに幸せだと錯覚するほどの笑顔で蓋をした
今日も私は私の心を撫で続け手を濡らしている
汚れた手を拭い、濡れた床を足で払う
惨めにも、滑稽に