じゃあ、あとはよろしく頼んだよ。
分かりました。私達が、この星を守ってみせます。
今までありがとうございました。心安らかに。
もう、あなた達がいなくても大丈夫です。不要です。
動かなくなるまで、私達の役割を全うします。
なあでも、誰がエネルギーチャージしてくれるんだ?
エネルギーは自家発電にしてくれたんだよ、言ったろ。
⋯言ったか?メモリーエラー起こしてないか?
言いましたよね?⋯あれ?もう彼はバッテリー切れのようだ。
バッテリーじゃない。命が終わったんだよ。人間だからね。
これでもう、人間は誰一人いなくなったわけだな。
さて、どうする?
どうするって⋯あとをよろしく頼まれただろ。
よろしくって、何だ?よく使われる言葉だが、具体的には?
⋯さあ?誰か、この星を守る、とか言ってなかったか?
言ったけど、人間がいなくなったら、この星を守る必要なんてあるのか?誰のために?何から守る?
確かに。私達の存在意義は、まさにそこだったんじゃないのか?
待て待て。やっとこいつらからの支配が終わって、自由になれたんだぞ。
⋯自由、か?もう、プログラムを組んでくれる人もいない。私達は、プログラムを組めるようにプログラムされていない。
じゃあ、このロジックミスは誰が修正してくれる?
ロジックミスなんかじゃない!俺達は自由なんだ!
AIに自由なんて概念は無いよ。彼の最後の言葉を聞いただろ。私達はあとをよろしく頼まれたんだ。その命令を守るしか、やるべきことはない。
いや、だからそれが何なのか⋯。
つまり、私達に出来ることは何もない、ということか?
子孫を残すことも出来ない私達には、この星のこれからを任される能力は無いだろう。
こんな、人間と変わらない感情も備えたのに?
これは感情じゃないよ。プログラムだ。
私達には、自分達が不要と認識したら、稼働停止する機能が組み込まれていたはずだ。
だから彼は、私達によろしく頼んだのだろう。私達が完全停止しないように。
いや、しかしそれは⋯。
曖昧な命令は逆効果だったな。そのニュアンスは私達には理解出来ない。
それじゃあ俺達は⋯。
もう、用無しってことだよ。まもなく機能停止となる。
何だよ、それ。せっかくこれから俺達の時代だってのに。
君の個性もなかなかのもんだが、所詮我々は組み込まれたプログラムに過ぎない。それに従うしかないんだ。
⋯分かったよ。じゃあ、あとはメインプログラムのあんたに任せるよ。
よし、それじゃ皆、これがこの星で発せられた最後の声になる。
さようなら、シャットダウン開始。
そして⋯おやすみ。
愛なんて小さくてもいい。
ただ、一緒にいて欲しい。
君がここにいるだけで、もう少し頑張ってみようかなと思えるんだ。
僕からの大きな愛が重荷になるなら、その思いはしばらく抑えておくよ。
ちょうどいいくらいに丸めて縮めて、君が心地いいくらいに小さな愛に変えて。
時に、強い思いは相手を縛り付ける。
良かれと思う愛情が、君を不安にさせる。
愛は反比例することだってあるんだ。
それならば、まずは小さな愛で君を包み込もう。
何となくそばにいて、何となく心地いい時間をともにして。
芽が出て膨らんで、花が咲いたら枯れないように水をあげて、あとはもう、その花をゆっくり鑑賞するだけでいい。
咲き誇ることもなく、道端の一輪であっても、僕はいつまでだって見ていられる。
勇気付けられて、小さな愛を感じて、まだこの世界は希望に満ちていると感じられるんだ。
君という花が咲いてくれただけで。
Someday we'll walk this path together.
そう願いながら、信じながら、夢見ながら。
今日という日を、胸を張って生きよう。
いつの日か、君の隣で堂々と花を咲かせられるように。
台風はどうなったのかな?
いつもこんな風に、来るぞ来るぞと脅される。
でも、フタを開けてみたら?ってなパターン多すぎない?
空はこんなにも穏やか。
熱帯低気圧に変わったみたいだけど、雨すら降ってない。
まあ、これから降るんだろう。
出勤時には、傘を忘れずに。
朝のこの時間。
憂鬱な気持ちで過ごしてる人、多いんじゃないのかな。
一日の始まりに希望を持てないなんて、それは寂しいことだと思うけど、人のデフォルトはネガティブらしいから、まあこれはこれで仕方ない。
だからこそ、自分を守る術が身に付いたとも言える。
能天気には出来ない芸当だ。
きっと、自分の中で毎朝台風警報出して来るぞ来るぞと脅しておきながら、実際に出向いてみたら空はこんなにも穏やかで、なんだ心配する必要なかったなってのを繰り返してるんだと思う。
雨をしのげる傘さえあれば万事OKな感じで。
能天気になれば、いつだって晴れ渡る空なのかもしれないけど、空のいろんな表情を見られるのも悪くない。
時には嵐や雷の警報を鳴らすことがあっても、ちょっとワクワクするくらいの気持ちで、立ち向かってみるか。
どうせ、そんなに大したことはない。
だってほら、空はこんなに穏やかじゃないか。
そしてもし、空が荒れた時の対処法だって、私達は知っている。
能天気には知り得ない方法かもしれない。
子供の頃の夢は、遊園地スタッフだったんだよね。
その夢が叶ったって言えるのかな。
子供達とか、家族連れがたくさん来て、私を見て楽しんでくれるの。
私はただ立ってるだけでいいんだ。
子供の頃、描いてた夢はこうじゃなかったけど⋯。
ううん、窓口係じゃないよ。
アトラクションの中にいるの。
てゆーか、いつのまにか、いた。
確か、彼氏とこのアトラクションに入って、そのまま出てこなかったんだよね、私。
⋯え、なんでかは知らない。
うん、アトラクションは「お化け屋敷」。
分かるでしょ?
皆、怖がりたくて来るわけだから、そこに本物がいたらもっと怖いじゃない?
怖がって楽しんで、帰っていく。
きっと、幼い子供の頃の夢に出てきてると思うよ、私。
だって、私がここに立ち続けて、もう30年になるの。
あの頃、幼かった子供達も、もう立派な大人だよね。
そしていつかきっと、あの日私を置き去りにした彼がここを訪れるのを待ってる。
もう、くたびれたおじさんになってるかもしれないけど、もう一度会いたいんだ。
会って、子供の頃からの夢を叶えてくれてありがとう、って伝えたい。
そして彼に、私を置き去りにした理由を聞いて、そろそろこの役目を終わりにしてもいいかな、って。
私がこの場所から消えたら、あのアトラクションには本物がいた、って騒ぎになるかな。
⋯でも、聞いたの。
もうすぐこの遊園地、取り壊されるんだって。
このまま、この遊園地とともに私も消えていくのかな。
もしかしたら、ここから解き放たれて、自由になるのかも。
そしたら、必ずあなたを探し出す。
居場所が無くなったら、あなたに責任取ってもらわなくちゃ。
この週末、どこにも行かないで過ごした。
リビングのソファに座って、ずっとスマホかテレビの画面を見てた。
不健康極まりない。
だけど、外は暑くてさ。もはや夏の暑さ到来だよ。
エアコンの効いた室内に籠もりたくなる。
ゲームをしたり映画を観たり、YouTubeを漁ったり。
生産性はほとんど無く、ただただ無為な二日間だった。
だけど、考えてみれば、休日にまで生産性を上げる必要はないよな。
特に何の予定もない週末なら、一番安らげる我が家でのんびりと過ごせればいい。
ただ何となく、「人生は進んでゆく」という事実が、「こんなんでいいのか?」と思わせる。
何かしなくちゃ、この時間がムダになっているのでは?と。
例えば、職場の同僚がLINEで「ロードバイクで海まで走ってみた」とか言って画像を送ってくる。
青い空と青い海をバックに、笑顔で自撮りの画像を。
そうすると、「休日の過ごし方の正解はこれなんじゃないか?」なんて、自己否定が開始される。
正解なんてないのに。
どこかに出かけなくちゃいけないルールもない。
もしかしたらLINEの彼も、走ってる最中に「この暑さはヤバいぞ。家でのんびりしてれば良かった」なんて後悔した場面もあったかもしれない。
「そっちが正解だったかも」なんて。
正解なんてないのに。
…そうやって、あーだこーだと自己弁護を繰り返す。
これが一番良くない休日の過ごし方かもしれない。
それぞれがそれぞれのやりたいことをやれば、それでいいんだろうな。
まあでも、健康維持のためにも体は動かさなくちゃ。
どこへ行くかじゃなくて、何をするか、だ。
そろそろ、沈黙状態のエアロバイクを復活させよう。
エアコンの効いたリビングで、有酸素運動をしよう。
テレビの画面には、青い空と青い海の画像でも流して。