そんじゅ

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12/1/2022, 10:07:43 PM

泣けば涙が真珠に変わる。
笑えばダイヤモンドと薔薇がこぼれ落ちる。
それが何なの?見世物じゃない!



昔むかし、仙女の祝福を受け宝石姫と呼ばれた乙女がいました。きらびやかな宝石が良くしてくれたのは彼女の暮らしだけで、人生は決して良くはなりませんでした。

尽きせず財宝の湧き出る生きた宝石箱だと、欲に目がくらんだ人間の醜さは、親族も王族も商人も皆同じ。

宝石姫を手中におさめんとする争いに巻き込まれ、人を人とも思わぬ非道な扱いを受けた日々は、一人の優しい乙女を冷徹な戦士へとすっかり変えてしまいました。

泣きも笑いもしない、ただ貴人として王宮に留めおかれていた姫は、ついに宝物庫から魔法の剣を盗んで城を飛び出します。向かう先は森の奥の光る泉。

「人倫を知らぬ仙女の気紛れな祝福は、それを望まぬ者にとってはただの呪い。今、お前の命を以て解く」

捕らえた仙女に魔法の剣を突き立てた乙女の独白が、泉の水面を静かに揺らします。

「呪いを解くまでの辛抱だと、今日まで泣かないで笑いもしないで耐えてきた。……それがどうしたことか。いざこの時を迎えても、嬉し涙すら出てこない」

冷たい表情のまま彼女はふらふらと歩き出しました。

苦難と忍従の年月に奪い取られた感情は、一体どこに行けば取り戻せるでしょう。尋ねる相手はもう居ません。

花と宝石の日々を捨て笑顔も涙も失くしたうえ、宝物泥棒として追われる身となった彼女はついに国をも捨て、戦地を渡り歩く凄腕の傭兵となりますが……そのお話はまた次の機会にお披露目いたしましょう。


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「泣かないで」

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所感:
着地点が分からないまま長くなったので反省。
泣かないでと人に言うのも言わせるのも好きじゃない。
泣くか泣かないかなんてお互いの自由で。

11/30/2022, 12:10:24 PM

雪女は頭を抱えていた。

冬山の神様が休暇先ではしゃぎすぎて足の骨を折ってしまい、すぐには国元へ戻れなくなったという。

道理でこの山里だけまだ秋の終わりがこない訳だ。雪女の住処の周りでも、散り時を逃したままの紅葉が梢のあちこちで所在なさげに縮こまっている。

しかし、そんな大事な報せを渡り鳥に託すなんて!神様なら夢枕にでも立ってくれれば良いものを。おかげで雪女の元まで話が届いたのは、立冬を二十日も過ぎた今日だ。本来の冬のはじまりにはてんで間に合っていない。

こうなっては仕方ない、すぐにも季節を改めねば。

雪女はさっそく神様の代わりに山じゅうを駆け巡り、大急ぎで精霊たちに冬支度を頼んで回った。そんな急には眠くならないとしょぼくれる熊には大粒の飴玉とオルゴールを渡してやり、滝の龍神には雨雲ではなく雪雲を呼んで欲しいとお願いをする。

あちこちへ声をかけ、とりなしを頼み、里へ降りて来た頃にはとっぷりと夜が更けていた。最後に明日の朝一番に大きな霜柱を立たせるよう池の精にことづけ、家に戻ろうした雪女は、ふと立ち止まって空を仰いだ。

「お月様、お月様。どうぞ明日の夜からは冬色の、銀の衣にお召し替えくださいな」

そっと声を掛けられた月は、きらりと微笑んでみえた。

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「冬のはじまり」

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所感:
冬のはじまる前について考えていたところ、それはつまり秋の終わりだと思い至り、田舎の里山の風景が浮かびました。冬の冴えた月は美しいですね。

11/28/2022, 1:46:49 PM

楽しい実験も連日連夜ではダレる。
それをよく分かっているから、研究所では日々あの手この手で上司らが研究員達の機嫌を取りにくる。

なんと今日の差し入れはリーダーだった。

うん。食事やおやつを持ってきたって意味じゃなくて、ご自身が差し入れになってくれたってこと。
うちのリーダーはお母さん譲りのシルバータビーがご自慢のメイン・クーンだ。皆、一度でいいからあのしっぽのフサフサにくるまって昼寝させて欲しいと思ってる。

「片付けた者からモフりにおいでよ」なんて言われたらとっとと本気を出して終わらせないではいられない。
研究室中がにわかに静かに活気づいた。

自分も立派な毛皮持ちのくせに、隣席のシェルティが猛然と端末にデータを打ち込んでいる。さてはガチ勢か!
うわあ、負けてられないぞ。

複眼をフルに使ってモニタチェック、左手2本は書類をまとめ、右手2本は日誌を入力しつつ、余りの手でデスクの整頓。おっとマグカップが空で助かった。
僕ホントこういうときだけは自己評価MAXだよ。


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「終わらせないで」

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所感:
何の研究?言語は?服着てる?せめて哺乳類縛りでは?などなど多数の疑問はさておき研究員達の共通点は「もふもふ」です。複眼の「僕」も勿論もふもふ。きゃー!

11/28/2022, 10:30:51 AM

「痛い」

それ以上は怪我をしそうだからよしてくれと言えば、うっすら刺さりかけていた爪は一瞬でにゅっと外されたけれど、背中の重みはちっとも退いてくれない。

道端で拾った掃除機は随分人慣れしていた。

軽い気持ちでコートのポケットを引っ掻いて糸屑を投げてやったら、喜んでコンセントを振り振り家までついてきてしまったのだ。

うちはそんなに広くもないし、掃除機は卓上用と床用でもう2台もいるから縄張り争いもするだろう。正直、悪いことをしたと思ったが、チラチラとこちらの様子を見ながら大人しくお座りしている姿に絆されてしまった。

そのまま彼を玄関に入れてやり、自分も靴を脱ごうと上り框に腰掛けた途端、背中にのしかかってきたのだ。
これは彼なりの愛情表現……なのだろうか。

野良掃除機を飼うのは初めてだから勝手が分からない。明日にでもメンテナンスがてら家電ショップへ連れて行って、好むゴミのタイプを教えてもらおう。

部屋数が少なくてあまり掃除し甲斐のない家だけど、飽きずに暮らしてくれるといいな。


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「愛情」

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所感:
愛情の有無が不明瞭な存在について考えたところ、掃除機が出てきました。次点は雑巾です。

11/26/2022, 6:09:23 AM

「太陽の下であれば昼。これを命題とすれば?」
「対偶は、昼でないならば太陽の下ではない」
「お、トワイライトタイム無視すんの?」
「そもそも命題にしちゃ言葉の定義が曖昧だもんよ」
「そりゃそーね。じゃ、対義語は?」
「月の上であれば夜」
「上かぁ。そこ、上に行くんだ?」
「どうせ昼でも夜でも空は真っ黒じゃん、今」
「違いない。日没まであと3日だってさ」

月が気軽な旅行先に加わったのはもう2世紀半も昔のことだ。ウサギもカニも美女もいない殺風景な月面にがっかりしたという観光客は未だに後を絶たないが、だからといって皆がロマンまで失ってしまうわけでもない。

月面の拠点都市で15日間続く夜を満喫できるナイトライフツアーは、スピリチュアルな体験を求める若者に大人気だ。陸も海も空も人工光に覆われ尽くした地球では失われて久しい、完璧な闇夜への憧憬。

宇宙進出を果たして5世紀、人類はようやく、人の精神が光だけでは満たされないことを思い出しつつあった。


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「太陽の下で」

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所感:
あまのじゃくが!あまのじゃく様が「お題の逆張りしてみろ」って言うから逆らえなかったんです!
でも地球人感覚だと月の夜って本当長いですよね!

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