「恋心と心拍数は連動しててもいいよね?だとか人体の構造を雑に決めた神を必ず探し出し息の根止めてやる」
よく分かんない理屈だけど、そんな決心をしたのは私の曾々々々々祖父、つまり七代前のご先祖様だ。
名前は弥五郎。レトロだよね。
我が家に伝わる話では、その(略)じいちゃんと彼の嫁さん、(つまり私の曾(略)祖母)は二人相思相愛の仲だった。
毎朝毎晩毎分毎秒、じいちゃんの顔を見る度にときめいてやたらドキドキしていたばあちゃんの心臓はすっかり弱ってしまい、子供を産んですぐに心臓が止まって死んでしまったのだそうだ。
で、恋女房を不意に亡くしたじいちゃんは、その悲しみを怒りへまるっと転換して「神殺し」なんて大それた計画をぶち上げて……本当に神の国まで行ったって。
神の首根っこ引っ掴んで剣を突き立てたまでは凄い。まるで物語の主人公だよ。でもさ、そう簡単に死なないしやられた分だけやり返すのが神様って奴だよね。
七代前のとんだご先祖様のおかげでうちの一族は、どれだけ好きな相手にも一切心がときめかないなんて、わりと通好みな感じの呪いを受けてしまったんだ。
ねえ。
好き。
心の底から大好き。
愛してる。
やっぱり伝わりにくいかな。
何言っても、何言われても、顔色ひとつ変わらない無愛想だけど、貴方のことを思っているのは本当だよ。
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「心と心」
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所感:
ドキドキしているのを好きだと勘違いするのが、吊り橋効果でしたっけ。
僕はキリンの背中に座り、セイウチ(かアザラシかトドか分からないけれど、とにかくそっち系の仲間の生物)のコロニーをゆったりと掻き分けながら、夕暮れの寂れた商店街を通りぬけようとしている。はげしく設定のバグった世界だ。
体感的には旅を始めて1週間ぐらい過ぎたような気がするけど、いつまでたっても夕日は沈まないし、商店街はどこまでも続いている。よくよく観察してみると、200メートルぐらいの間隔で同じ店の並びがループしているし、うっかりキリンに頭を踏まれて血まみれのセイウチも数十分に一回のペースでまた僕たちの行く手に現れる。
なんだこれ。走馬灯ってやつなのか?
まるで理解できない道のりを延々とループしているこれが?それとも僕は何か、理解しがたい、あるいは理解をしたくない何かについて拒否しようとしているのだろうか。
……わかったよ。
オーケー、諦めをつけろってことだろ。
そろそろ認めてやってもいい。
死出の旅路は雪風吹きすさぶ荒野か、はたまた石段をくだり続ける洞窟なんてのを想像していたが、そもそも人間の想像力の及ぶ世界ではなかったってことだ。
きっと、未練なんて全部擦り切れてすべてがどうでもよくなるまでこの良く分からない道をいくんだ。
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「仲間」
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所感:
こういう道もある。
電気猫を飼っても案外電気代はかからない。
電気猫達は両耳の房毛がうんと長い触手になっていて、そこでご飯の代わりに電気を吸う。放っておけば勝手に充電ケーブルと触手を繋いで食事をしている。
うちの子はUSB Type-Cがお気に入りで、スマホの充電中に知らん顔で端子を抜き取るイタズラをよくやられた。仕方なく追加でケーブルを買ってきても、新しいのには見向きもしないあたり、ほんと猫そのものなんどけど。
昔々、ある日突然宇宙からやって来た生命体が地球の猫とそっくりのビジュアルだったから、宇宙船で彼らと初めて対面した人間達はとても困惑したんだって。
宇宙生命体が猫に擬態しているだけで本体は別な姿だ、いやそもそも猫が地球征服の先兵として送り込まれていたのだ、とかなんとか人類は喧々轟々議論したらしいけど、かわいいものの魅力には誰も敵いやしない。
地球に移住した電気猫はあっという間に人間との同居にも馴染み、これまたあっという間に猫と同じぐらい可愛がられる存在になった。
カワイイだけで衣食住の全てをまかなわせるとんでもない征服王にとっくに屈している地球人たちだけど、どうしてこんなに平和で幸せなんだろうね。
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「手を繋いで」
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所感:
どんな手があるか、歌い手、旗手、担い手、両手、色々リストアップした中で、一番非日常的な単語を選んだらこうなりました。
スマホも電子辞書もない昔は、海外旅行って今より本当に大変なイベントだったんだよ。出国するまでも、向こうで楽しく過ごすのも、無事に帰って来るのも。
旅行仲間に限界外国語の達人っていう先輩がいたんだけどさ。“限界”って何かというと。
「こんにちは、ありがとう、ごめんね」
現地語でこの3ワードさえ言えれば、出会った人達と大抵のコミュニケーションは何とかなるってわけ。
で、旅行滞在中は更に追加で2ワード。
「これはいくら?」
「トイレはどこ?」
先輩はこの5つだけなら21か国語で話せるって笑って自慢してた。そのうちの3つは広東語と上海語と普通話だったよ。先輩は料理が好きだったから、現地であちこち食べ歩くのを趣味にしてたんだ。
でさ、こないだ久々にその先輩から連絡きて一緒にご飯食べたんだ。最近どこに行ったか聞いたら真顔で一言「地底都市」って。
正気か?って一瞬怯んだんだけど、スマホの写真見せてもらったら、疑いきれなくなっちゃった。先輩いわく、
「太陽光がないから朝晩の概念がなくて『おはよう』『こんばんは』に対応する単語もない。全部『こんにちは』で良かった。あと、貨幣制度も無いっぽくて『これいくら?』は教われなかった」だってさ。
行こうと思える好奇心と、スマホの十分なバッテリー、あとは身体に合った胃腸薬。今はこの3つがあれば、何も話せなくったって世界中どこでも行けるって笑ってた。
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「ありがとう、ごめんね」
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所感:
お題に合わせて変更しましたが、本来の限界外国語は「ありがとう、これいくら、トイレどこ」の3つです。あとは身振り手振りと変顔でなんとかなります。
あの日。久々に上がった屋根裏部屋の片隅で、鳥の羽根がこんもりと山を作っていた。
ひょっとして鳩でも入り込んで巣作りしてしまったんだろうか。卵を産む前に片付けにゃならんとバケツとホウキを抱えて戻ってきたら、羽根の山がふわふわ動いている。まさかもうヒナがいるのか。
両手でそっと羽根をかき分けてみたら、ふわふわの中にはなんと赤ん坊の天使がうずまっていた。
「おお人間よ。私を見つけてくれてありがとう」
流石は天からの使者。
見た目は赤ん坊でも話す言葉は流暢だ。
「うっかり季節を長く過ごしてしまい、地上で換羽期が来てしまった。翼が元通りになり、再び空を飛べるようになるまでしばしここに居させてもらえないだろうか」
鳥の巣をぶち壊すつもりだったとは白状できず、暖房のない屋根裏に一人居させるのも何だか申し訳ない気分になって、あなたが構わないなら階下に居れば良いと告げると彼はにっこり微笑んだ。
「親切な人間よ。貴方に加護を」
それから一月ほどの間、天使との同居生活は案外楽しいものだった。聞き上手な天使は堅苦しい説教もせずに仕事の愚痴に付き合ってくれたし、しなやかな羽根が生えそろってきた翼を撫でさせてもくれた。
「今日、天の国へ戻ろうと思う」
そう切り出されたときは本当に寂しくて泣きそうだったけれど、引き留めるわけにはいかない。またいつか会えたら嬉しいと伝えるだけで精一杯だった。
「私も貴方との再会を楽しみにしている」
天使はその一言を残して去っていった。
僕は彼に「また会えて良かった」と言われたい一心で、それからの人生を真面目に誠実に、丁寧に生きてきた。
もちろん自分にできる範囲で、だけれど。
今日はあの日と同じ、雲の速い空だ。
天使はきっと疾風のように駆けて来てくれるだろう。
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「部屋の片隅で」
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所感:
不法侵入!