言っちゃ駄目って決まりはないよ。
ただ、後が面倒だから黙ってるだけで。
だからほら、葉を隠すなら木の枝に、木を隠すなら森の中に、なんて言ってるといつの間にか嘘と秘密まみれのジャングルが生まれたりする。
そしたらもう終わりだよ。
森は隠せないからナパーム弾……ってなるじゃん。
無かったことに、じゃなくて全部無くすんだよ。
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誰にも言えない秘密
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所感:
秘密なんて「ある」と思われた時点で秘密じゃない。
僕は外に出られない。
この狭い部屋ひとつが僕の居場所。
窓はいつも外から勝手にブラインドがおろされる。
壁は頑丈な割に薄いので騒音が素通しで辛い。
しかもここは屋上階らしく、暑さ寒さの差もひどい。
居心地最悪な空間に閉じ込められて、もう十数年。
初めは自分がここに居る理由が何も分からずに恐怖と苛立ちに駆られて泣き叫び、獣のように暴れていた。
けれど年月をかけ窓越しに学びを施された現在、諦念と怠惰によく馴らされ、日々静かに時間を喰んでいる。
今、僕が知ってるのは、この部屋が存在するこの世界と自分自身の運命とが完全にリンクしているってこと。
僕の死、イコール、世界の死。なんてこった。
だから僕は静かに、大人しく、できる限り密やかに生きることを決めた。勇壮な冒険者の気質なんて端から持ち合わせちゃいない。
何もしないことで世界が、そう、僕を受け入れてなお毎日を真剣に楽しく生きている君の命が救われるなら、僕は喜んでこの無為徒食の日々を受け入れる。
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狭い部屋
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所感:
ラノベでありがちなテンプレタイトルより。
「転生したら知らない奴の脳髄だった件」
失恋したことがないって人に、これまで3人会った。
実った初恋そのままに結婚して、子どもが巣立ってからも毎年夫婦で旅行に出かけてるおじいさん。
ずっと告白されたことしかなくて、今はそのなかから一番相性良いだろう一人を割り出し中のおねえさん。
人を好きになったことも人から好きと言われたこともない、失うことのできる恋をまだ持ってないあなた。
こうしてみると、人それぞれなんだけど。
羨ましいとも羨ましくないとも、絶妙に微妙。
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失恋
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所感:
失恋してばかりというのはあまり羨ましくないので、適正な量、回数の範囲内での経験に留めておきたい。
僕は自分自身のことを嘘つきだと理解しているんだが、実際のところ嘘つきではない。これは嘘じゃない。
どういうことかと云うと、周りの人間が誰も僕に嘘をつかせてくれないのだ。ああ、これは嘘をついてもすぐばれるという意味ではなくてね。
そもそも、だ。
未だかつて僕は、有効な会話が成立する人間関係を築けたことがない。そしてたとえ僕が何を話そうと、それが真実だろうが虚実だろうが一切の言葉は聞き流される。
つまり、僕の言動は全くの空虚ってことだ。
……と、正直な話をしてるんだが。聞いてる?
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正直
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所感:
相手のない嘘はないのです。
TVで梅雨入りのニュースが流れると、リビングにいる者全員で誕生日の歌を合唱するのが、毎年この時期だけの家族のしきたりだ。
(ずっとそれで育ってきたもんで、よその家ではニュースを見ながら急に歌い出さないのが一般的らしいと気付いたときはちょっとビックリした)
Happy birthday to you,
Happy birthday dear こうめちゃん
Happy birthday to you!
うちの小梅ちゃんはもう随分なおばあちゃん犬ながら元気いっぱいにご飯も散歩も毎日満喫してる。ただ、天気の悪い日だけは絶対に散歩拒否で、リビングのクッションに丸まって一歩も動かない。
そんなとき、父はわしわしと小梅を撫でながらいつも「小梅のおうちはここだよ」と優しく話しかける。
昔々。長雨で増水した河川敷からびしょ濡れの子犬を拾ってきたのは母で、「梅雨にやって来たから小梅だ」ってざっくりと命名したのが父。
翌年に、正確な誕生日は分からないから梅雨が来たら祝うことと決めて以来、今、20回目のファミリーミュージカルを小梅ちゃんは尻尾ふりふり鑑賞中というわけだ。
わりと上手な三声合唱をBGMに、我が家の茶色い天使は眠そうな目をしている。最後は露骨に欠伸もしたが、つまりアルファ波が出るほど癒されてくれていると好意的に解釈したい。
今年はあっという間に猛暑が来そうって予報も出てたから、晴れたらまたいっぱいお散歩しようね。
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梅雨
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所感:
♪はっぴばーすでー つーゆー