「秋恋」
雲ひとつない薄青の秋空。頬を撫でる風は柔らかさの中にほんの少しだけ冬を宿している。私はこの秋の風が好きだ。あなたに恋をしたあの日と同じ匂いがするから。
「愛する、それ故に」
「どうして、助けに来てくれたの?」
まるで罪人のように檻に閉じ込められ、手錠をかけられた彼女は、黒い瞳に涙を浮かべて僕に尋ねた。
「危険だって分かってるはずなのに」
責めるような言い方の中に、安堵感と喜びが混ざっているのが感じられる。彼女のこういう素直なところ、そして僕を心配して怒ってくれているところが本当に愛おしい。
「君を愛しているからだよ」
彼女の潤んだ瞳をまっすぐに見つめながら僕は答えた。こうして言葉にするととても照れくさく感じる。
「え?」
こっちは大真面目に質問に答えているというのに、間の抜けた声を返された。そんなに純粋な瞳で見つめられるとなんだか気まずいからやめてほしい。
「僕は君を愛してる。だから、助けに来たんだ。危険かどうかなんて関係ない」
服は所々破けてボロボロだし、体のいたるところから血が出ていて、とてもヒロインを助けるヒーローなどとはいえないだろう。
それでも、僕は彼女を愛している、それ故にどんな危険な場所にも何度だって立ち向かうことができるのだ。
「静寂の中心で」
真っ暗な空に煌めく星たちは私を静寂の中心に連れて行ってくれる。そこは車の音も誰かの声も聞こえない。自分自身の声も、水のように湧いてくる後悔や悩みもない。静寂は私を世の中のしがらみから解放してくれる唯一の救いだ。
この静寂のひとときがあるなら、私はきっと明日も生きていけるだろう。
「燃える葉」
爽やかな秋風の中を歩いていると、ふと視界の端に鮮やかな赤が映った。ハッとして顔を上げると、炎と見紛うような赤色の葉を茂らせたもみじの木が私を見下ろしていた。秋晴れの青に赤色の葉がよく映えている。
「そういえば前にも…」
それは二年前のことだった。その時も、木が燃えていると勘違いして少し焦っていた。
あの時はセーラー服にスカート姿だったが、今回は茶色い薄手の長袖に白のズボン姿だ。
私の立場も環境もたった二年で大きく変わってしまったが、まだこのもみじがここにあること、そして変わらない自分に少しホッとした。
------願わくば、このもみじがこれからもこの場所で、目まぐるしく変化する人の世を見守ってくれますように。
「moonlight」
月の光は好きだ。静かで、きれいで、嬉しい夜も落ち込んだ夜も全ての夜に優しく寄り添ってくれる。
でも、今日は違った。
「ごめん、俺たち別れよう」
月明かりの下、彼は私に終わりを告げた。あまりの衝撃に、どう返したのかは記憶になく、遠くなる彼の背中だけが鮮明に脳裏に焼き付いていた。
一人茫然と立ち尽くす夜の路地裏。ふと空を見上げると月だけがポツンと浮かび、星たちは姿を隠している。
まるでスポットライトのように私だけを照らす月の光は、ただただ無機質で優しさを感じることはできなかった。