「小さな命」
細い路地を歩いていると、小さく掠れた声が聞こえた。周りを見渡しても誰もいない。茂みの隙間をそっと覗いてみると、そこに薄汚れた小さな猫がいた。しばらく見守ったが、親も兄弟も現れない。寂しげに鳴くその猫の姿が、1人寂しく暮らす自分に重なって見え、そっと抱き上げた。細い体だが、確かに心臓の鼓動と暖かさが伝わり、小さな命の輝きを感じた。
偶然出会った小さな命。それは僕の心に暖かな火を灯した。
こんな僕だけれど、君を幸せに出来たらいい。
「Love you」
反対側の道に、懐かしい笑顔があった。花がパッと咲くように明るいその笑顔は、今はもう別の誰かに向けられている。
最後まで、僕は君に I love you を言うことが出来なかった。その言葉の重さを、責任を強く感じて、簡単に口にすることは出来なかった。そうして君は、とうとう僕から離れていった。
僕は君を愛し、君に愛される覚悟ができなかった。
もう、I love you を伝えることは出来ないけれど、君を愛して、それをちゃんと伝えてくれる誰かがいるなら。
君が幸せそうで、よかった。
「太陽のような」
「僕は太陽のような人にはなれないから、代わりにこれを」
そう言ってあなたは太陽のように大きく咲き誇る、1本の向日葵を私に手渡した。
確かにあなたは、太陽のように明るいわけでも、熱いわけでもなく、どちらかと言うと月のように静かに寄り添ってくれる人だ。
突然渡された向日葵に戸惑う私に、あなたは目尻を下げはにかんだ。
「君が暗闇に迷った時、僕じゃ照らしだしてあげられないかもしれないけど、太陽のように明るくて大きなこの花なら君の心も照らせるんじゃないかと思って」
あなたはそんな風に自分を過小評価するけれど、太陽のように明るくなくたって、大きくなくたって、あなたの優しさが私の心を照らしてくれる。
ありがとう、と微笑んで向日葵を受け取り、あなたをそっと抱きしめた。
「0からの」
「0からまた始めよう」
私にはこの言葉は残酷に聞こえる。もちろん、言った人に悪気がないことも励まそうとしてくれていることも分かっている。それでも、今まで必死に積み上げたものが、1つも残らない中で、0からまた始めるだなんて、あまりにも厳しくて苦しい。
もう私には、0から再び始めることは出来そうにない。
「同情」
いつも笑顔な君が珍しく肩を落として俯いていたから、話を聞いて励ました。これでいつもの君に戻ってくれるだろうと思っていた。けれど翌日、君が屋上から飛び降りて大怪我をしたという噂が耳に入ってきた。
回復した君に会いに行くと、君は言った。
「みんな同情はする。でも私の気持ちを本当には分かってくれない」
その君の言葉が、僕の心に重く響いてのしかかった。