「逆光」
別れを告げる君の顔が、逆光で見えない。君は本当に私が嫌いになったから別れを切り出したのか、それとも何か別の理由があるのか。君の声に哀しみが滲み出ているように感じたのは、私が都合よく解釈しようとしているだけなのか。
もう何年も君と一緒に歩いてきたはずなのに、君の気持ちがこれっぽっちもわからない。
何も言えないまま、私は君の表情を隠す太陽を、眩しさもお構いなしに睨みつけた。
「こんな夢を見た」
こんな夢を見た。
小さな教会であなたと式を挙げる夢。人は少ないけれど、
温かくて幸せな結婚式だった。誓いのキスにお互いに照れて顔が赤くなっていた。その時の熱い感覚が、まだ残っている。
それなのに、目が覚めれば見飽きた部屋に1人。幸せの残滓がまだ残っているのに、鮮明にあなたの照れ笑いを思い出せるのに、ここは紛れもなく現実世界だった。
どうせならあっちが現実でこっちが夢なら良かった。
あの夢の中で過ごせるのなら、二度と目覚めることができなかったとしても夢の中で生きていくのに。
「タイムマシーン」
もしタイムマシーンがあっても、私は過去には戻らない。過去に戻ればあなたに会える。あなたにもう一度会えればきっと私はもう現在には戻れないだろう。けれど、いずれあなたを奪いに来る運命には勝てないから、またあなたを失うことになる。
また失うくらいなら戻らない方がいい。
いつか天国で会えることを信じて、私は今を生きる。
「特別な夜」
街灯の少ない夜の道を、2人で歩く。最初は緊張して上手く話せなかったけど、一緒に歩くうちに緊張も解け、話に花が咲いた。
空を見上げると、満開の星々が輝いている。足を止め、2人でしばし眺めていた。
まだ、帰りたくない。このままこうして君と、話が尽きるまで、どこまででも歩いて行きたい。
誕生日でもクリスマスでもないけれど、2人で歩いて話して星を見るこの夜が、私にとってはとても特別な夜だと流れ星を見ながら思った。
「海の底」
太陽の光も届かない、暗い暗い海の底。海が時折、潮を渦巻くだけでそこには冷たさと孤独だけが広がっている。
そんな場所に長いこといると、何もかも分からなくなっていく。私は誰なのか、どうしてここにいるのか、記憶が薄れていく。
でも、一つだけわかる。私は待っている。人なのか、物なのか、具体的なことわわからない。けれどそれが私の使命だということだけははっきりと覚えている。
いつか訪れるのなら、早く来てほしい。私が何もかも忘れてしまう前に。私という存在が暗い海の底で静かに泡となり消えてしまう前に。