──拝啓、君へ。
お元気ですか。私は元気です。
蝉が泣きやまない午後、僕はようやくこの手紙を送ろうと決心しました。
あの日、祭りの最後。
君はあの花火を覚えていますか。僕はあの光景が今でも脳裏に焼きついたままです。
焼きついた光景は真っ赤な花ではなく、恥ずかしそうにはにかむ君の姿です。
今では花の弾ける音が聴こえるたびに、君のはにかむ浴衣姿を思い出します。
あの日、君の浴衣姿を初めて見ました。浴衣に慣れない君が、僕の手でバランスをとりゆっくり歩いていたのを覚えています。
あの時はああ言ったけど、本当は赤く帯びた顔を誤魔化すためです。
今、語っても仕方ありませんね。
あの時から素直になればよかった。
今更だけど、素直な僕の気持ちをここに、書き記します。
今まで素直になれなくてごめんなさい。照れ隠しで酷いことを言ってごめんなさい。
君といた時間が僕の人生の中で一番重要でした。
君の言葉が嬉しかった。君と過ごした日々が楽しかった。君の体温で埋め尽くされた日はいつもより脈が速かった。
貴方が好きです。
僕は、貴方をいつでも待っています。
───敬具。
「届いた」
君が呟く。蝉の声が止まる。鼓動の音が耳を占領した。
「届いたから、もうじゅうぶん。」
繰り返し言う君は優しい目をしているのに、何故か苦々しい言葉に聞こえた。
そして、スマートフォンへと視線を戻す。
私にはまるで興味がないみたいだ。
波音が私を誘う。
「あつい」
今はもう50度超えの包まれるような暑さ。
人類はもう現状に受け入れていて、私もその一人だ。海は近くても空気がずっと肌にまとわり続けるようでうざったらしかった。
青い風が鼻をつつく。
脈動感の汗に包まれたその笑顔が輝かしい。
拳を振り上げ、"感動"と"歓喜"を歯の奥に噛み締めている彼らの姿。
そんな澄み切った表情に私は胸を打たれた。
「くそっ!」
掠れた声で貴方は叫ぶ。否定的な言葉を発しているのに、否定的な言葉のくせに。貴方はこれ以上にないほどの"楽しい"を表現していた。否、貴方だけではない。貴方の背を追いかけた彼ら全員も愉快な表情を浮かべている。
まずい。溺れる。
瞬間、嚥下の音が耳を占領した。抜け出せない。こんな美しい界隈に溺れないわけがない。
「好きだ」
既に溺れ、楽しみ、抜け出せなくなっている彼らが。
好きを追いかけ続ける貴方が。とてつもなく好きだ。
【君の背中を追って】