『時を繋ぐ糸』
昨日は祖母の命日だった。
私のおばあちゃんは祖父の遺影の前でよく編み物をしていた。
子供の頃はおばあちゃんと祖父がちゃぶ台を囲みみかんの皮を1枚1枚ゆっくりと剥き、他愛のない会話をしていた。
いつも無口で何を考えているのか分からない祖父だったが、祖母の前では優しく笑い、今思えばすごく恥ずかしがり屋さんだったのだろう。
ほほほ、とほんのりと頬を赤らめて祖父の話をするおばあちゃんはいつも嬉しそうだった。
ずっと昔から何かを編んでおり、何を編んでるの?と聞いてもおばあちゃんは貴方が20歳になったら教えてあげます。としか言ってくれなかった。
もどかしくて、早く大人になりたい!と、母の化粧道具を勝手に使ったり、父が好きなお酒を飲んでみたりと、ものすごく怒られたが、母も優しく頭を撫でてくれ、父も、最後は笑っていた。
そんな小学時代を過ごし、中学、高校、とあっという間に時間は過ぎ去った。
恋をしたり、喧嘩をしたり、泣いたり怒ったり、でも、最後は笑っていた。
祖母は相変わらずずっと何かを編んでいた。
でも、最近は寝てる事の方が多くなった。
母は、「お母さん」と悲しそうにおばあちゃんの手を握った。
祖母は最期に、お誕生日おめでとう、当日に言えなくてごめんなさいね。と言ったらしい。
目を赤く腫らした母が言っていた。
そして、母の手には祖母がずっと編んでいた純白のヴェールが握られていた。
『どこへ行こう』
魔王を倒したあとはどこへ行ったらいいのだろう。
エンディングが流れたあと、次はどこを目指せばいいのだろう。
5線に乗せられた音を辿り終止符を打ったその先にはどんな音があるのだろう。
何も知らない赤子はただ泣くことしかできない。
どこへ行こう。
そう思った瞬間、私はもう既に歩き始めているのだ。
『落ち葉の道』
落ち葉は誰にも拾われず、踏まれ、風に流される。
落ち葉を拾ってくれる人なんてそうそういない。
でも、たまに、風に逆らい、もしかしたら気まぐれかもしれない。しゃがむ人だっている。
でも、落ち葉は、風が吹けば、舞い上がる。
それを待つのもいいかもしれないが、私たちは、何も考えずに落ち葉でありふれたこの世界を歩く。
『夢の断片』
誰にも踏まれていない雪の上
足跡はなく
ただ、空にいくつかの星が 散らばっている
冷たい風は私の輪郭をなぞる
音も、風もない
それでも私はここにいる。
そして、どこにもいない
『吹き抜ける風』
もう誰もいない縁側に腰掛けた。
幼い笑い声もそれらを微笑ましそうに見つめる影が微かに覗いた。
その一瞬、颯が私の髪を遊び、そして、その先には零れ落ちてきそうなほどの星空が広がっていた。
私は、冷たくなった自身の背中をそっと撫でた。